記録によれば本件公訴事實として公判請求書に記載せられている事實は「被告人等(被告人A、相被告人B、原審相被告人Cは)孰れも麻藥取締者でないのに共謀して昭和二三年一〇月一五日頃神戸市a區b町c丁目附近に於て販賣の目的で麻藥ヘロイン三六、五瓦を所持して居つたものである」ということである。ところが原審は、被告人について右公訴にかゝる麻藥の共同所持の事實については何等の認定と判斷を示すことなく、たゞ單に相被告人Bの麻藥讓渡未遂の幇助をしたものと判定しているのである。しかしながらかような麻藥の讓渡未遂の幇助という事實は前記公判請求書に記載されている麻藥共同所持の事實とは基本的事實關係において同一性を有するもとではないと認めるのが相當であるされば原判決は審判の請求を受けた事件につき判決を爲さず却つて審判の請求を受けない事件につき判決をした違法があるものといわなければならない。
審判の請求を受けない事件につき判決をした場合の一例―公判請求書記載の麻藥共同所持の事實と判決認定の麻藥讓渡未遂の幇助との事實の同一性の有無
舊刑訴法360條1項,舊刑訴法410條18號
判旨
麻薬の共同所持の公訴事実に対し、裁判所が麻薬譲渡未遂の幇助を認定することは、両事実に基本的事実関係の同一性が認められないため、不告不理の原則に反し違法である。
問題の所在(論点)
公訴事実である「麻薬の共同所持」と、原審が認定した「麻薬譲渡未遂の幇助」との間に、公訴棄却や訴因変更を要しない程度の「事実の同一性」が認められるか、あるいは審判の請求を受けない事件についての判決として違法となるかが問題となる。
規範
裁判所は、審判の請求を受けた事件についてのみ審判すべきであり(不告不理の原則)、公訴事実と認定事実との間に「基本的事実関係における同一性」が認められない場合には、別個の事件として審判の対象外となる。
重要事実
被告人は、共犯者らと共謀して麻薬ヘロイン約36.5グラムを販売目的で所持していたとして「麻薬の共同所持」の事実で公判請求された。しかし、原審は当該共同所持の事実については何ら認定も判断も示さず、被告人が相被告人による「麻薬譲渡未遂の幇助」をした事実のみを認定して有罪とした。
あてはめ
麻薬の共同所持は、物の所持という状態を問題とするものである。これに対し、麻薬譲渡未遂の幇助は、他人の譲渡行為を助けるという具体的加功行為を問題とする。本件において、これら二つの事実は基本的事実関係において同一性を有するものとは認められない。したがって、原審は訴追されていない別個の事実を認定したといえる。
結論
原判決は、審判の請求を受けた事件につき判決をせず、請求を受けていない事件につき判決をした違法がある。したがって、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
訴因の同一性(刑事訴訟法312条1項)に関する初期の判例であり、基本的事実関係の同一性を基準に審判範囲を画定する。共同正犯としての所持と、従犯(幇助)としての譲渡未遂は、行為の態様や客体との関わり方が大きく異なるため、訴因変更なしに認定することは許されないという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和24(れ)2770 / 裁判年月日: 昭和25年7月21日 / 結論: 棄却
麻藥取締規則(昭和二一年厚生省令第二五號)施行中において不法に麻藥を所持した行爲とその所持者が自らこれを自己の身体に使用した行爲とは各別罪を構成する
事件番号: 昭和25(れ)1721 / 裁判年月日: 昭和26年2月22日 / 結論: 棄却
原判決が所論の刑法第六〇条を明示していないことは所論のとおりであるが、その判示第三として「被告人Aは阿片末の売却斡旋方依頼を受け更に被告人Bに依頼してここに右両被告人は共同して他に売却するためにC方に同行持参する迄共同所持し」と例示しているから、原判決は被告人B相被告人Aの両名の判示阿片末所持の犯行について刑法第六〇条…