原判決が所論の刑法第六〇条を明示していないことは所論のとおりであるが、その判示第三として「被告人Aは阿片末の売却斡旋方依頼を受け更に被告人Bに依頼してここに右両被告人は共同して他に売却するためにC方に同行持参する迄共同所持し」と例示しているから、原判決は被告人B相被告人Aの両名の判示阿片末所持の犯行について刑法第六〇条を適用して右両名は共同正犯であると認定しているものであること明白であるそして刑法総則の規定は本件のようにこれを適用した場合にこれを適用した旨を条文を摘示して明示しないからといつて違法であるとはいえない。
阿片末の共同所持に対する刑法第六〇条の適用と総則規定の適用を明示するとの要否
刑法60条,旧刑訴法360条1項
判旨
麻薬等の禁制物における「所持」とは、対象物を自己の実力支配内に置くことを意味し、複数の者が共同して売却目的で運搬する行為もこれに含まれる。
問題の所在(論点)
1.麻薬取締規則にいう「所持」の意義。2.判決書において、共同正犯の規定(刑法60条)等の刑法総則の条文を明示せず事実認定のみで適用することは許されるか。
規範
麻薬取締規則(当時)における「所持」とは、麻薬を自己の実力支配内に置くことを意味する。また、刑法総則の規定(刑法60条等)を適用して有罪判決を下す際、判文中に共同正犯である旨の事実認定が明示されていれば、必ずしも条文番号を摘示しなくとも違法ではない。
重要事実
被告人Aは阿片末の売却斡旋を依頼され、さらに被告人Bに依頼した。両被告人は、他に売却する目的で、阿片末をC方へ同行持参するまで共同して持ち運んだ。原審は、被告人らが共同して所持した事実を認定したが、判決文に「刑法60条」の条文自体は明示していなかった。
あてはめ
1.「所持」の意義について、被告人らは阿片末を売却目的で目的地まで同行持参しており、その間、当該物品を自己らの実力支配内に置いていたといえる。したがって、被告人らの行為は所持に該当する。2.条文摘示の要否について、原判決は「両被告人は共同して……共同所持し」と事実を明示しており、実質的に刑法60条の共同正犯として認定していることが明白である。刑法総則の規定は、適用した旨の条文番号を具体的に摘示しなくとも、事実認定によってその適用が明らかであれば違法とはいえない。
結論
被告人らが阿片末を実力支配内に置いた以上「所持」にあたる。また、共同正犯の認定において刑法60条の摘示がなくても判決に違法はない。
実務上の射程
禁制物(薬物、拳銃等)の「所持」の定義として、現在でも「実力支配」というキーワードで引用される。また、刑事裁判実務における判決書の記載事項(罪となるべき事実と法の適用)において、総則規定の条文摘示の要否に関する限界を示す事例として機能する。
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