一 旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第三条にいう「譲り渡し」とは、所有権の移転を目的とする麻薬の授受の場合に限られない。 二 塩酸モルヒネ末を所持する者が、これを他人に交付して注射液の製剤を依頼し、その後注射液として引渡を受けて所持する場合は、塩酸モルヒネ末の所持罪と注射液の所持罪との二罪が成立し併合罪となる。 三 塩酸ヂアセチルモルヒネを所持する者が、それを麻薬である塩酸モルヒネと誤信していたときは旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第三条違反の罪責を負う。
一 旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第三条にいう「譲り渡し」の意義 二 塩酸モルヒネ末の所持者が他人に依頼して注射液に製剤した上所持する場合とその罪数 三 塩酸ヂアセチルモルヒネの所持者がそれを麻薬である塩酸モルヒネと誤信した場合とその罪責
旧麻薬取締法(昭和23年法律123号)3条,旧麻薬取締法(昭和23年法律123号)57条,刑法45条,刑法38条2項
判旨
麻薬取締法における「譲渡」は、所有権の移転を目的とする授受に限られず、広く他人に交付する行為を含む。また、麻薬粉末の所持と、その一部を他人に加工させた後の注射液としての所持は、別罪を構成し併合罪となると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
1. 麻薬取締法における「譲渡・譲受」は所有権の移転を要件とするか。 2. 所持していた麻薬粉末を他人に加工させ、再度注射液として所持した場合の罪数関係はどうなるか。
規範
1. 麻薬取締法上の「譲渡」または「譲受」は、所有権の移転を前提とする行為に限られない。 2. 同一の麻薬であっても、粉末状態での所持と、加工を委託した後に返還を受けた注射液状態での所持は、別個の所持罪として併合罪(刑法45条)の関係に立つ。
重要事実
被告人Aらは麻薬の譲渡・譲受等の罪で起訴された。被告人Fは、自ら所持していた塩酸モルヒネ粉末(5グラム瓶3本)の一部を順次、相被告人Iに交付して注射液の製剤を依頼し、後に製剤された注射液を再び受領して所持した。原審は、この粉末の所持と注射液の所持を別罪として併合罪として処断したため、被告人側がこれを包括一罪であると主張して上告した。
あてはめ
1. 譲渡の意義について、判例(昭和29年8月20日判決)の趣旨を維持し、所有権移転を目的とする場合に限定されないと解すべきである。 2. 被告人Fは、当初粉末を所持し、その一部を製剤のために他人に交付した。その後、再び注射液として受領し所持するに至っている。粉末全体の所持という状態と、加工後の注射液の所持という状態は、時間的・態様的に別個の所持と認められる。したがって、これらを別罪として併合罪と処断した原判断は正当である。
結論
1. 麻薬の譲渡は所有権移転を要しない。 2. 麻薬粉末の所持と、加工後の注射液の所持は別罪として併合罪となる。被告人の上告を棄却する。
実務上の射程
麻薬取締法における「譲渡」の広範な定義を確認する。罪数論としては、所持の継続性が一度断絶し、形態(粉末から液剤)を変えて再度所持が開始された場合には、別個の所持罪が成立し得ることを示しており、包括一罪の範囲を画定する際の参考となる。
事件番号: 昭和29(あ)1565 / 裁判年月日: 昭和32年12月19日 / 結論: 棄却
麻薬取締法は、麻薬が人間に対しはなはだしい害毒を流す特質を有することを考慮し、その害毒の流布を防止するため、あらゆる角度から麻薬に関する行為を列挙して、これを処罰の対象としたものと解するを相当とする。そして、麻薬の譲受と譲渡とでは相手方を異にし、行為の態様を異にする別個独立の行為であることはいうをまたない。
事件番号: 昭和27(あ)411 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
麻薬中毒患者が自己の中毒症状緩和のため使用する目的をもつて、麻薬を譲り受け所持する場合には、右譲り受ける行為と所持する行為とはこれを包括し、一罪を構成するものと解すべきである。