麻薬取締法は、麻薬が人間に対しはなはだしい害毒を流す特質を有することを考慮し、その害毒の流布を防止するため、あらゆる角度から麻薬に関する行為を列挙して、これを処罰の対象としたものと解するを相当とする。そして、麻薬の譲受と譲渡とでは相手方を異にし、行為の態様を異にする別個独立の行為であることはいうをまたない。
麻薬取締法の法意
旧麻薬取締法(昭和23年法律123号)4条,刑法45条
判旨
麻薬取締法における麻薬の譲受行為と譲渡行為は、麻薬の害毒流布防止という法の趣旨に鑑み、互いに相手方や行為態様を異にする別個独立の行為として併合罪の関係に立つ。
問題の所在(論点)
麻薬の仲介目的でなされた譲受行為と譲渡行為が、刑法上の吸収関係(一罪)となるか、あるいは別個独立の罪(併合罪)となるか。
規範
麻薬取締法は、麻薬の甚大な害毒の流布を防止するため、あらゆる角度から麻薬に関する行為を列記して処罰の対象としている。したがって、麻薬の譲受と譲渡は、相手方および行為の態様を異にする別個独立の行為と解すべきである。
重要事実
被告人Aは、被告人Bに仲介する目的でCから麻薬を譲り受け、即日Bに譲渡した。また被告人Bは、Dに仲介する目的でCらから麻薬を譲り受け、即日Dに譲渡した。弁護人は、仲介目的を達成する過程で行われた一連の行為(譲受から譲渡)は、後の行為に吸収されて一罪を構成するにすぎないと主張して上告した。
あてはめ
麻薬取締法の目的は麻薬の害毒流布を広範に網をかけて防止することにある。本件において、被告人らが麻薬を譲り受ける行為と、それを他者に譲り渡す行為は、取引の相手方が異なり、かつ「受ける」と「渡す」という行為の態様自体も明確に区別されるものである。たとえ当初から仲介の目的があったとしても、それぞれの行為が独立して麻薬の拡散に寄与している以上、一方が他方に吸収される関係にはない。
結論
麻薬の譲受と譲渡は別個独立の罪となり、併合罪として処罰される。したがって、二罪の成立を認めた原判決に違法はない。
実務上の射程
薬物事犯における譲受・譲渡・所持等の罪数関係を検討する際のリーディングケースである。行為の態様や相手方の異同に着目し、法の目的である「害毒の流布防止」の観点から各行為の独立性を肯定する論理は、現代の覚醒剤取締法等の解釈においても同様に適用される。
事件番号: 昭和28(あ)2803 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
一 旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第三条にいう「譲り渡し」とは、所有権の移転を目的とする麻薬の授受の場合に限られない。 二 塩酸モルヒネ末を所持する者が、これを他人に交付して注射液の製剤を依頼し、その後注射液として引渡を受けて所持する場合は、塩酸モルヒネ末の所持罪と注射液の所持罪との二罪が成立し併合罪となる。…
事件番号: 昭和53(あ)2288 / 裁判年月日: 昭和54年12月14日 / 結論: 棄却
麻薬の譲受けとその麻薬の譲渡しは、たとえそれが営利の目的で行われたものでも、犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものではなく、右両罪は併合罪の関係にある。
事件番号: 昭和30(あ)1665 / 裁判年月日: 昭和31年1月12日 / 結論: 棄却
昭和二八年三月一〇日頃から同年六月末日頃までの間に接続して一一回に覚せい剤を譲受けた行為と、その覚せい剤の一部を同年七月一四日頃居宅炊事場の石油罐または土蔵内にそれぞれ隠匿所持していた行為とは、各別個の罪を構成し併合罪となる。