昭和二八年三月一〇日頃から同年六月末日頃までの間に接続して一一回に覚せい剤を譲受けた行為と、その覚せい剤の一部を同年七月一四日頃居宅炊事場の石油罐または土蔵内にそれぞれ隠匿所持していた行為とは、各別個の罪を構成し併合罪となる。
覚せい剤の譲受行為とその所持の行為が併合罪となる一事例
覚せい剤取締法17条,覚せい剤取締法14条,刑法45条
判旨
覚せい剤の譲受に必然的に伴う所持は原則として譲受罪に包括されるが、譲受後に時間的空間的関係の推移変動により、取引上別個独立の行為と観察し得るに至れば、譲受罪とは別に所持罪が成立する。
問題の所在(論点)
覚せい剤を譲り受け、その後も引き続き所持した場合において、当該所持が譲受罪に包括されるのか、あるいは別個に所持罪を構成するのか。また、別罪を構成するとした場合に憲法39条の二重処罰禁止に抵触しないか。
規範
覚せい剤取締法は、譲受という「動的行為」と所持という「静的行為」を、取締目的と法益を異にする別個の罪として規定している。譲受直後の所持は取引通念上、譲受に一連する包括的行為として譲受の一罪に吸収されるが、譲受後の時間的・空間的関係の推移変動により、その所持が別個独立の行為として観察し得るに至った場合には、譲受罪とは別に所持罪が成立し、両者は併合罪となる。
重要事実
被告人は、昭和28年3月10日頃から同年6月末日頃までの間に本件覚せい剤を譲り受けた。その後、同年7月14日頃、自らの居宅炊事場の石油缶または土蔵内にそれらを隠匿して所持していた。原審は、この隠匿所持が譲受行為に当然随伴するものとは認められないとして、譲受罪とは別に所持罪の成立を認めたため、被告人側が二重処罰(憲法39条違反)を主張して上告した。
あてはめ
本件では、覚せい剤の譲受が完了した時期(同年6月末日頃)と、所持が摘発された時期(同年7月14日頃)との間には相当の期間が経過している。また、居宅の石油缶や土蔵内に隠匿するという所持の態様は、単に譲受に伴う付随的な状態を超え、時間的・空間的関係の推移変動を経て、取引通念上も譲受行為とは独立した別個の保持行為として観察できる。したがって、この隠匿所持は譲受行為に包括されるものではなく、独立した罪を構成すると評価される。
結論
被告人の所持行為は譲受罪に包括されず、別個独立に所持罪が成立する。したがって、両罪を処罰することは憲法39条に違反しない。
実務上の射程
状態犯的側面を持つ犯罪において、先行する実行行為に付随する不可罰的事後行為となるか、あるいは別個の法益侵害を認めるべきかの限界を示した判例である。答案上では、先行行為と後行行為の間の時間的・場所的間隔や、態様の特殊性(隠匿等)に着目し、一連の包括的行為といえるか否かを論述する際の判断基準として活用できる。
事件番号: 昭和31(あ)4748 / 裁判年月日: 昭和35年3月29日 / 結論: 棄却
昭和三一年一〇日頃譲渡したと認められた覚せい剤一、一〇〇本位および同年四月八日頃所持していたと認められた覚せい剤約二八一本が、同年一月初旬頃密造したと認められた覚せい剤約一、八〇〇本の一部であつたとしても、右譲渡および所持は、その方法態様において密造に当然随伴する行為とは認められないから、所論のように事後の処分行為と認…
事件番号: 昭和31(あ)300 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
覚せい剤取締法第一四条にいわゆる所持とは、必ずしも覚せい剤を物理的に把持することは必要でなく、その存在を認識してこれを管理しうる状態にあるをもつて足りると解すべきである。