昭和三一年一〇日頃譲渡したと認められた覚せい剤一、一〇〇本位および同年四月八日頃所持していたと認められた覚せい剤約二八一本が、同年一月初旬頃密造したと認められた覚せい剤約一、八〇〇本の一部であつたとしても、右譲渡および所持は、その方法態様において密造に当然随伴する行為とは認められないから、所論のように事後の処分行為と認めるべきものではない。
覚せい剤の密造とその譲渡および所持が事後処分とならない事例。
覚せい剤取締法14条,覚せい剤取締法15条,覚せい剤取締法17条,刑法45条
判旨
覚せい剤の製造罪と、その後に製造した覚せい剤の一部を譲渡・所持する行為との関係について、その方法や態様において製造に当然随伴するものと認められない場合には、事後の処分行為として吸収されず、別罪として成立する。
問題の所在(論点)
覚せい剤の製造行為と、その後に製造された覚せい剤の一部を譲渡・所持する行為が、不可罰的事後行為として一罪(製造罪)に吸収されるか、それとも製造罪、譲渡罪、所持罪として別個に成立するかが問題となる。
規範
特定の犯罪行為によって生じた結果を処分する行為が、先の犯罪に当然随伴すると認められる場合には、不可罰的事後行為として別罪を構成しない。しかし、当該処分行為が方法・態様において当然の随伴性を有しないと認められる場合には、先の犯罪とは独立した別罪が成立し、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。
重要事実
被告人Bは、営利目的をもって覚せい剤約1,800本を製造した。その後、被告人はその一部である約1,100本を他者に譲渡し、さらに別の日には約281本を所持していた。被告人側は、譲渡および所持の行為は、製造された覚せい剤の一部に関する事後的な処分行為であり、製造罪に包括されるべきであると主張して上告した。
事件番号: 昭和30(あ)1665 / 裁判年月日: 昭和31年1月12日 / 結論: 棄却
昭和二八年三月一〇日頃から同年六月末日頃までの間に接続して一一回に覚せい剤を譲受けた行為と、その覚せい剤の一部を同年七月一四日頃居宅炊事場の石油罐または土蔵内にそれぞれ隠匿所持していた行為とは、各別個の罪を構成し併合罪となる。
あてはめ
本件において、被告人が製造した覚せい剤は約1,800本という多量であり、そのうちの1,100本を製造から約10日後に譲渡し、さらに約3ヶ月後にも相当量を所持していた。このような大規模かつ継続的な譲渡・所持行為は、単なる「製造した物の保持」という製造行為の延長線上にあるものとは言い難い。その方法や態様を考慮すれば、製造に当然随伴する不可避的な処分行為とは認められない。したがって、これらの行為は製造罪とは別個の処罰価値を有する独立した犯罪行為であると評価される。
結論
被告人に対し、製造罪に加えて譲渡罪および所持罪の成立を認め、併合罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
不可罰的事後行為の限界を判断する際の指標として「方法態様における当然の随伴性」を示した。実務上、薬物犯罪においては製造・輸入と譲渡・所持が時間的・空間的に密接していない限り、別罪として併合罪処理されるのが一般的である。答案上は、事後行為が先行行為の保護法益をさらに侵害しているか、または態様として異質かという視点から「随伴性」を否定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)1534 / 裁判年月日: 昭和30年1月14日 / 結論: 棄却
覚せい剤の密造者が、製造にかかる覚せい剤を所持する場合において、その所持が製造に伴う必然的結果として一時的になされるに過ぎないと認められない限り、その所持は製造行為に包括せられるものとはいえない。