覚せい剤の密造者が、製造にかかる覚せい剤を所持する場合において、その所持が製造に伴う必然的結果として一時的になされるに過ぎないと認められない限り、その所持は製造行為に包括せられるものとはいえない。
覚せい剤の製造とその後の所持
覚せい剤取締法14条,覚せい剤取締法15条
判旨
覚せい剤の製造に伴い、その製品が製造の必然的結果として一時的に所持されるに過ぎないといえない場合には、製造罪に加えて所持罪が別罪として成立する。
問題の所在(論点)
覚せい剤の製造行為と、その製品の所持行為が併存する場合の罪数関係。特に、製造された製品の所持が製造罪に吸収されるための要件。
規範
覚せい剤の製造罪と所持罪の関係において、当該所持が「製造に伴う必然的結果として一時的に所持されるに過ぎないもの」と認められない限り、所持罪は製造罪に包括・吸収されることはなく、別個の罪を構成する。
重要事実
被告人は、昭和27年2月7日頃から同年5月22日頃までの間に覚せい剤25,000本を製造した。また、これとは別に、被告人は同年2月22日に覚せい剤1,860本を所持していた。この所持していた覚せい剤が、前記製造された25,000本の一部であったとしても、製造過程で不可避的に生じる一時的な保管状態を超えているかが問題となった。
事件番号: 昭和31(あ)4748 / 裁判年月日: 昭和35年3月29日 / 結論: 棄却
昭和三一年一〇日頃譲渡したと認められた覚せい剤一、一〇〇本位および同年四月八日頃所持していたと認められた覚せい剤約二八一本が、同年一月初旬頃密造したと認められた覚せい剤約一、八〇〇本の一部であつたとしても、右譲渡および所持は、その方法態様において密造に当然随伴する行為とは認められないから、所論のように事後の処分行為と認…
あてはめ
本件で被告人が所持していた1,860本の覚せい剤は、製造された25,000本の一部である可能性がある。しかし、製造罪における「製造」行為は完成をもって終了する。本件の所持は、単なる製造に伴う必然的・付随的・一時的な状態にとどまるものとは認められない。したがって、製造行為とは別に独立して社会的な危険性を有する「所持」として評価されるべきである。
結論
被告人には覚せい剤製造罪に加えて、所持罪が成立し、両者は併合罪(または観念的競合等の数罪)の関係に立つ。原判決が製造罪の外に所持罪の成立を認めたのは正当である。
実務上の射程
本判決は、薬物犯罪における状態犯的な側面と独立した構成要件の峻別を示す。答案上では、先行行為(製造・密輸入等)に当然に付随するといえる程度の所持(必然的・一時的)でない限り、包括一罪とはならず別罪を構成すると論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和30(あ)1665 / 裁判年月日: 昭和31年1月12日 / 結論: 棄却
昭和二八年三月一〇日頃から同年六月末日頃までの間に接続して一一回に覚せい剤を譲受けた行為と、その覚せい剤の一部を同年七月一四日頃居宅炊事場の石油罐または土蔵内にそれぞれ隠匿所持していた行為とは、各別個の罪を構成し併合罪となる。
事件番号: 昭和48(あ)1984 / 裁判年月日: 昭和50年1月27日 / 結論: 棄却
覚せい剤(粉末〇・四三七グラム)を自宅でテレビの上に置いて所持する罪と、覚せい剤原料(粉末〇・七六一二グラム)を自宅で着衣のポケットに入れて所持する罪とは、併合罪の関係にある。