刑訴第一八一条第三項の規定は検察官のみが上訴した場合の規定であり、原審が被告人に刑訴第一八一条第一項により訴訟費用の負担を命じたとしても本件においては、被告人の控訴により生じた国選弁護人に関する費用の負担を命じたにすぎないのであるから所論違憲の主張は前提において採用できない。
被告人および検察官が上訴し双方共棄却された場合の訴訟費用の負担
刑訴法181条1項,刑訴法181条3項
判旨
覚醒剤取締法上の「所持」とは、人が物を事実上支配する立場にある状態を指し、所有権の有無は問わない。また、所持の事実認定は証拠に基づき判断され、中身を認知していないとする主張は事実認定の問題に帰結する。
問題の所在(論点)
1.覚醒剤取締法における「所持」の意義および所有権の要否。2.内容物への認識を欠くとする主張と所持の成否。3.双方が上訴し棄却された場合における被告人の訴訟費用負担の可否。
規範
覚醒剤取締法における「所持」とは、一定の人が一定の物を事実上支配する立場にある場合を総称する。したがって、必ずしも当該物件の所有権を有することを必要としない。
重要事実
被告人が荷物を携帯していたところ、その中に覚醒剤が入っていた。被告人は、当該荷物の中に覚醒剤が入っていることを知らなかった(善意の第三者である)と主張し、所持の認定及び覚醒剤取締法14条1項の違憲性を争った。また、検察官及び被告人の双方が控訴し共に棄却された事案において、被告人が訴訟費用の全額負担を命じられたことの適法性も争点となった。
あてはめ
1.「所持」は事実上の支配状態を指す概念であるから、所有権がない場合であっても事実上の支配が認められれば「所持」に該当する。2.被告人は覚醒剤の存在を不知であったと主張するが、原審において証拠に基づき所持の事実が適法に認定されている以上、その前提を欠く独自の主張は採用できない。3.刑訴法181条3項は検察官のみが上訴した場合の規定であり、被告人も控訴している本件では同条1項に基づき訴訟費用の負担を命じることが可能である。特に本件では被告人の控訴により生じた国選弁護人費用の負担を命じたに過ぎず、違法はない。
結論
被告人が物を事実上支配していれば「所持」にあたり、所有権は不要である。また、被告人の控訴により生じた訴訟費用を被告人に負担させることは適法である。
実務上の射程
覚醒剤取締法だけでなく、所持概念が問題となる他の薬物犯罪や武器等持出しの罪においても、物理的・事実的な支配を重視する「所持」の定義として引用可能である。また、訴訟費用の負担に関する解釈指針としても機能する。
事件番号: 昭和31(あ)300 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
覚せい剤取締法第一四条にいわゆる所持とは、必ずしも覚せい剤を物理的に把持することは必要でなく、その存在を認識してこれを管理しうる状態にあるをもつて足りると解すべきである。