被告人が本件覚せい剤につき実力支配を有せずこれを所持しないのに「所持」の解釈を誤まり有罪としたことは憲法三一条に違反すると主張する。しかし、原判決はその挙示する証拠によつて、被告人は本件覚せい剤をA方に預け、同人はさらにこれをB方に預け、右Bは被告人のためにこれを保管し、被告人もまた本件覚せい剤がA方からB方に預けられ、同人が被告人のため保管していることを知り、これを処分させるため家人をB方に赴かせた事実を認定しているのであり、これらの状況においては被告人が本件覚せい剤につきなお実力支配を有し保管していたものと認めることができる。
覚せい剤取締法第一四条にいう「所持」と認められる一事例
覚せい剤取締法14条,覚せい剤取締法41条
判旨
覚せい剤を他人に預け、さらに転送されて第三者が保管している場合であっても、被告人がその保管状況を認識し、かつ処分を命じるなどの実力支配を及ぼし得る状況にあれば、覚せい剤の「所持」が認められる。
問題の所在(論点)
覚せい剤取締法における「所持」の成否につき、被告人が自ら物理的に保持せず、他人を介して間接的に保管させている場合に、実力支配が認められるか。
規範
「所持」とは、物に対する実力的な支配を意味する。これは必ずしも直接的な物理的保持を要せず、他者を介して保管させている場合であっても、保管の経緯、場所の認識、処分権限の有無等の客観的・主観的状況に照らし、依然として被告人の実力支配が及んでいると評価できる場合には、その所持を認めることができる。
重要事実
被告人は、本件覚せい剤をAに預け、AはさらにこれをBに預けた。Bは被告人のために当該覚せい剤を保管しており、被告人もまた、当該覚せい剤がAからBへと預け替えられ、Bが自己のために保管している事実を認識していた。その後、被告人は保管されている覚せい剤を処分させる目的で、家人をBのもとへ赴かせた。
あてはめ
被告人は覚せい剤をAに預け、さらにBへと転送されているが、Bは「被告人のために」保管しており、被告人もその経緯と現在の保管場所を認識していた。また、被告人が家人をBのもとへ派遣して処分を試みている事実は、被告人が当該覚せい剤に対して依然として具体的な指示を与え、その行方を左右し得る地位にあったことを示している。このような状況下では、被告人は本件覚せい剤に対し、なお実力支配を有していたといえる。
結論
被告人が直接覚せい剤を保持していなくても、他人を介した実力支配が認められるため、覚せい剤の「所持」罪が成立する。
実務上の射程
間接所持の肯定例として重要である。被告人と受託者(保管者)との間に、被告人の意思に基づいて保管・処分が行われる関係性が認められ、被告人がその所在を把握している場合には、物理的保持がなくとも「所持」の要件を充足する。答案上は、実力支配の有無を判断する際の考慮要素として「保管の動機・態様」「場所の認識」「処分の指示・権限」を整理する際に活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)5774 / 裁判年月日: 昭和30年4月12日 / 結論: 棄却
刑訴第一八一条第三項の規定は検察官のみが上訴した場合の規定であり、原審が被告人に刑訴第一八一条第一項により訴訟費用の負担を命じたとしても本件においては、被告人の控訴により生じた国選弁護人に関する費用の負担を命じたにすぎないのであるから所論違憲の主張は前提において採用できない。
事件番号: 昭和31(あ)300 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
覚せい剤取締法第一四条にいわゆる所持とは、必ずしも覚せい剤を物理的に把持することは必要でなく、その存在を認識してこれを管理しうる状態にあるをもつて足りると解すべきである。
事件番号: 昭和30(あ)354 / 裁判年月日: 昭和30年5月28日 / 結論: 棄却
本件麻薬の所持が麻薬取締法にいう所持に当らないという主張であるが、同法にいう所持は必ずしも物理的な握持関係ではなく、法律的な観念であるから、所論のような事実であつても、また重畳的にも所持を認定することができないことはない。