本件麻薬の所持が麻薬取締法にいう所持に当らないという主張であるが、同法にいう所持は必ずしも物理的な握持関係ではなく、法律的な観念であるから、所論のような事実であつても、また重畳的にも所持を認定することができないことはない。
麻薬取締法にいう「所持」と重畳的所持
麻薬取締法3条
判旨
麻薬取締法(現麻薬及び向精神薬取締法)における「所持」とは、必ずしも物理的な握持関係を必要とせず、法律上の観念として捉えるべきであり、重畳的な所持も成立し得る。
問題の所在(論点)
麻薬取締法における「所持」の意義、および物理的な握持関係を伴わない場合や、重畳的な所持が認められるか否かが問題となる。
規範
麻薬取締法にいう「所持」とは、物に対する実力的な支配関係を意味するが、これは必ずしも物理的な握持(直接的な保持)を意味するものではなく、法律的・規範的な観念として解されるべきである。したがって、一の麻薬について、複数の者が重畳的に所持を認めることも妨げられない。
重要事実
被告人が麻薬の所持により麻薬取締法違反に問われた事案において、弁護人は、本件麻薬の所持の態様が物理的な握持関係を伴わないこと等を理由に、同法上の「所持」に当たらないと主張して上告した。
あてはめ
麻薬の所持は、対象物を排他的に支配し得る状態にあれば足り、現に手に持っているといった物理的状態に限定されるものではない。本件においても、たとえ物理的握持が認められない状況であっても、法律的な観念として実力的な支配が及んでいると評価できる場合には所持に該当する。また、所持は一人に限られるものではなく、複数人が共同して、あるいは重畳的に一つの麻薬を支配していると認められる場合には、その全員について所持の成立を肯定することができる。
結論
被告人に麻薬の所持が認められるとした原判決は正当であり、所持の意義に関する上告趣意は採用できない。
実務上の射程
本判決は、薬物犯罪における「所持」が物理的占有よりも広い「実力的支配」を指すことを示した重要な判例である。答案上では、薬物を他人に預けている場合や、共同正犯による共同所持を論ずる際の法的根拠として活用すべきである。
事件番号: 昭和30(あ)3630 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
被告人が本件覚せい剤につき実力支配を有せずこれを所持しないのに「所持」の解釈を誤まり有罪としたことは憲法三一条に違反すると主張する。しかし、原判決はその挙示する証拠によつて、被告人は本件覚せい剤をA方に預け、同人はさらにこれをB方に預け、右Bは被告人のためにこれを保管し、被告人もまた本件覚せい剤がA方からB方に預けられ…
事件番号: 昭和31(あ)300 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
覚せい剤取締法第一四条にいわゆる所持とは、必ずしも覚せい剤を物理的に把持することは必要でなく、その存在を認識してこれを管理しうる状態にあるをもつて足りると解すべきである。