判旨
覚醒剤取締法における所持罪の成立には、対象物が覚醒剤であることの認識が必要であるが、本件では被告人が覚醒剤であることを知りながら所持していたと認められるため、憲法違反の問題は生じない。
問題の所在(論点)
覚醒剤取締法違反(所持)の罪が成立するために、対象物が覚醒剤であることの認識が必要か。また、不知のまま所持する場合を処罰することが憲法に抵触するか。
規範
覚醒剤等の禁制品の所持罪が成立するためには、行為者が当該物件の存在を認識していることに加え、それが覚醒剤等の禁制品であることについての認識(故意)を要する。
重要事実
被告人が覚醒剤を所持していた事案において、弁護人は「自己の意思に反して、あるいは不知によって所持する場合まで処罰する法規は憲法29条(財産権の保障)に違反する」旨を主張し、上告した。
あてはめ
一審判決および原判決は、被告人が当該物件を「覚醒剤であることを知りながら」所持したという事実を認定している。したがって、弁護人が主張する「不知による所持」という事実は前提を欠いており、憲法違反を論じる実益がない。
結論
被告人は覚醒剤であることの認識を有していたと認められるため、所持罪の成立を認めた原判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、故意(認識)の対象としての薬物の性質について触れた初期の判例である。実務上、故意の対象は「覚醒剤そのもの」である必要はなく、少なくとも「身体に有害な薬物」程度の認識があれば足りるとされる(概括的故意)。答案上は、所持の故意を論じる際に「覚醒剤であることの認識」の有無を検討する出発点として機能する。
事件番号: 昭和31(あ)300 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
覚せい剤取締法第一四条にいわゆる所持とは、必ずしも覚せい剤を物理的に把持することは必要でなく、その存在を認識してこれを管理しうる状態にあるをもつて足りると解すべきである。