判旨
覚せい剤の製造事実の認定において、鑑定書により製造工程の科学的可能性が認められ、かつ被告人らの知識経験や製造過程での身体反応等の諸証拠を総合すれば、当該物件が法所定の覚せい剤であると認めることができる。
問題の所在(論点)
被告人らが製造した物件が、改正前覚せい剤取締法2条所定の「覚せい剤」に該当すると認めるための事実認定に、経験法則または論理法則違反があるか。
規範
特定の物件が覚せい剤取締法上の「覚せい剤」に該当するか否かの認定は、化学的知見に基づく専門家の鑑定結果(製造の可能性)に加え、被告人らの経歴・知識・技術、製造過程における具体的な言動、及び当該物件を摂取した際の身体反応等の間接事実を総合して判断すべきである。
重要事実
被告人D(化学薬品の知識・技術あり)と被告人E(化学専門学校卒、研究所勤務経験あり)は、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を製造・譲渡したとして起訴された。弁護側は、鑑定結果や供述調書に示された方法による製造の可能性を争ったが、被告人らは「製造技術を指導した」「慣れるに従い良い品ができた」「製造中に薬が口に入った際は目が冴えて眠れなかった」等の供述をしていた。
あてはめ
第一に、複数の鑑定書および鑑定証人の供述から、被告人らの供述調書に記載された工程によって覚せい剤の製造が可能であることが認められる。第二に、被告人D・Eがいずれも化学の専門的知識・経験を有しており、実際に技術指導を行いながら「良い品」を完成させるに至った経緯が認められる。第三に、製造中に物件が口に入った際、覚せい剤特有の身体反応(覚醒作用による不眠)が生じている。これらの諸事実に鑑みれば、製造された物件が法所定の覚せい剤であるとした原判決の認定は合理的である。
結論
被告人らが製造した物件を法所定の覚せい剤と認定した原判決に事実誤認や法令違反は認められず、本件各上告を棄却する。
実務上の射程
違法薬物の特定において、物件の現物が存在しない場合や鑑定のみで直ちに特定しきれない場合であっても、被告人の専門的能力、製造工程の科学的妥当性、及び使用・接触時の身体反応等の間接事実を総合することで「覚せい剤」該当性を認定しうるとする実務上の判断枠組みを示している。
事件番号: 昭和29(あ)4015 / 裁判年月日: 昭和31年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤取締法上の「製造」には、化学的製出や調合のみならず、製品を小分けして容器に納め封緘し、譲渡に適する状態に製作する行為も含まれる。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤を製造したとして覚せい剤取締法違反で起訴された。原判決(東京高裁判決)は、殺菌水に原料等を溶解した時点で製造罪は既遂に達し、…