被告人が昭和二九年一一月末頃覚せい剤注射液アムプル入約三四〇本を譲り受けた後、これを被告人方二階床下等に隠して同年一二月三日頃所持した場合には、右覚せい剤の譲受とその隠匿所持とは同一の事実とは認められない
覚せい剤の譲受とその後の所持とが同一の事実と認められない事例
覚せい剤取締法14条1項,覚せい剤取締法17条3項,覚せい剤取締法41条1項2号,覚せい剤取締法41条1項4号,刑法45条,刑訴法338条3号,憲法39条
判旨
覚せい剤を譲り受けた者が、その譲受罪の完了後に、目的物を他人の目に触れないよう隠匿して管理・支配し続けた場合、覚せい剤譲受罪とは別に、独立して覚せい剤所持罪が成立する。
問題の所在(論点)
覚せい剤を譲り受けた者がそのまま隠匿・保管を続けた場合、譲受罪という一つの罪のみが成立するのか、それとも譲受罪とは別に所持罪が成立し併合罪(刑法45条前段)となるのか。
規範
1. 覚せい剤取締法における「所持」とは、必ずしも物理的に把持することを要せず、その存在を認識してこれを管理し得る状態にあれば足りる。 2. 覚せい剤譲受罪が完了した後に、譲り受けた薬物を特定の場所に隠匿して所持する行為は、当初の譲受行為とは別の事実と評価でき、譲受罪とは別に所持罪を構成し、両者は併合罪となる。
重要事実
被告人は、Aから覚せい剤注射液約340本を譲り受けた。その後、被告人はこの注射液を自宅の1階の蠅帳(はえちょう)の下に40本、2階の床下に300本隠し、数日間にわたりこれを隠匿・管理し続けた。この行為について、覚せい剤譲受の事実と、その後の隠匿所持の事実がそれぞれ別個に起訴され、第一審および控訴審は両者を別罪として認定した。
事件番号: 昭和30(あ)1665 / 裁判年月日: 昭和31年1月12日 / 結論: 棄却
昭和二八年三月一〇日頃から同年六月末日頃までの間に接続して一一回に覚せい剤を譲受けた行為と、その覚せい剤の一部を同年七月一四日頃居宅炊事場の石油罐または土蔵内にそれぞれ隠匿所持していた行為とは、各別個の罪を構成し併合罪となる。
あてはめ
本件において、被告人は覚せい剤譲受罪が完了した後に、あえて自宅の1階蠅帳下や2階床下といった特定の場所に薬物を隠し、自身の支配下に置いて管理し続けている。これは、譲受という一回的な取得行為から時間的・態様的に独立した所持行為といえる。したがって、単なる譲受に伴う付随的な状態にとどまらず、新たな「所持」という犯罪事実が認められる。かかる隠匿所持は、譲受行為とは別個の事実であり、第一審がそれぞれ別罪とした判断は正当である。
結論
覚せい剤の譲受とその後の隠匿所持とは同一の事実ではなく、それぞれ別個の罪(譲受罪および所持罪)を構成し、併合罪となる。
実務上の射程
同一の物件を対象とする譲受罪と所持罪の関係を論じる際の基準となる。単なる取得後の継続的な保持を超えて、隠匿などの積極的な管理態様が認められる場合には、不可罰的事後行為や包括一罪ではなく、併合罪として処理すべきであることを示している。答案上は、罪数論の場面で「譲受行為と時間的・場所的に密接不可分といえるか」という視点からあてはめる際に用いる。
事件番号: 昭和31(あ)4748 / 裁判年月日: 昭和35年3月29日 / 結論: 棄却
昭和三一年一〇日頃譲渡したと認められた覚せい剤一、一〇〇本位および同年四月八日頃所持していたと認められた覚せい剤約二八一本が、同年一月初旬頃密造したと認められた覚せい剤約一、八〇〇本の一部であつたとしても、右譲渡および所持は、その方法態様において密造に当然随伴する行為とは認められないから、所論のように事後の処分行為と認…
事件番号: 昭和31(あ)300 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
覚せい剤取締法第一四条にいわゆる所持とは、必ずしも覚せい剤を物理的に把持することは必要でなく、その存在を認識してこれを管理しうる状態にあるをもつて足りると解すべきである。