一 かねて自宅に保管していた麻薬を持ち出し、これを二個に分割し、その一部を他人に交付し、残余の部分を留保して自宅外の場所に隠匿した場合には別個独立の所持罪が成立する。 二 麻薬所持の罪において起訴事実と認定事実との間に、所持の場所に多少の変更があつても、所持の目的物が同一である限り、その一事を以つて直ちに公訴事実の同一性が失われるとは解されない。 三 被告人の控訴趣意書中事実誤認を指摘するが如き口吩があつても、控訴の要旨は量刑過重に失するを不服とし刑の執行猶予を願うにあるときは、同被告人の弁護人の控訴趣意の量刑不当の主張に対する判断がなされている限り、右被告人の控訴趣意書に対する判断を遺脱した違法があつても、右違法は判決に影響がなく刑訴第四一一条にあたらない。
一 別個の所持の認められる一事例 二 所持罪における場所の変更と公訴事実の同一性 三 被告人の控訴趣意書に対する判断遺脱が刑訴第四一一条にあたらない一事例
旧麻薬取締法(昭和23年法律123号)3条1項,旧麻薬取締法(昭和23年法律123号)57条,刑法45条,刑訴法256条,刑訴法312条,刑訴法378条3号,刑訴法392条1項,刑訴法411条
判旨
麻薬の所持罪において、保管場所を区分して一部を他者に交付し、残部を別の場所に隠匿して預けさせた場合、それらは別個独立の所持罪を構成し、二重起訴には当たらない。また、公訴事実と認定事実の間で所持の場所に多少の変更があっても、所持の目的物が同一であれば公訴事実の同一性は失われず、不告不理の原則には反しない。
問題の所在(論点)
1. 一定の目的により分断された禁制物の所持が別個独立の罪を構成するか、あるいは二重起訴を禁じる一事不再理効の対象となる一箇の罪か。 2. 所持罪において、起訴状記載の場所と認定された場所が異なる場合、公訴事実の同一性を欠き、不告不理の原則(刑事訴訟法378条3号)に抵触するか。
規範
1. 禁制物の所持罪において、所持の主体、客体、態様(保管場所や管理状況)が分断されている場合には、包括的一罪ではなく別個独立の罪を構成する。 2. 訴因の特定及び変更について、所持罪における場所は重要な訴因の内容をなすが、所持の目的物が同一である限り、場所の認定に多少の変更があっても直ちに公訴事実の同一性が失われるものではない。
重要事実
被告人Aは、自宅に保管していた麻薬を二分割し、その一部を共犯者Bらに交付した(第一の起訴事実)。一方で、残りの麻薬を自宅外のC方に隠匿した後、共犯者Dに預けて保管させた(第二の起訴事実)。弁護人は、これら二つの所持は一箇の所持であり二重起訴に当たると主張した。また、第二の起訴事実について、起訴状記載の所持場所(被告人の自宅)と第一審が認定した場所(D宅)が異なることから、不告不理の原則に反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人Aは麻薬を二分割し、一部を交付し、残部を自宅外の別の場所に隠匿して他者に預けている。このような所持の態様の変化および分断に鑑みれば、原判決が両者を別個独立の二つの所持と解したことは正当であり、二重起訴の主張は前提を欠く。 2. 第二の起訴事実に関し、訴因上の場所は「被告人の自宅」とされていたが、実際の認定は「C方への隠匿およびDへの寄託」であった。しかし、所持の目的物たる麻薬自体が同一である以上、場所の変更は公訴事実の同一性を損なうものではなく、審判の対象として同一性を保持しているといえる。
結論
本件各所持は別個の罪を構成し二重起訴には当たらない。また、場所の認定が訴因と異なっても公訴事実の同一性は失われず、不告不理の原則違反もないため、本件上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、禁制物所持の罪数判断において、場所的・時間的分断や管理状況の変更がある場合に別罪構成を認める重要な指標となる。また、訴因変更の要否に関する議論において、場所の変更があっても「客体の同一性」が認められる場合には公訴事実の同一性が維持されるという判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)2803 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
一 旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第三条にいう「譲り渡し」とは、所有権の移転を目的とする麻薬の授受の場合に限られない。 二 塩酸モルヒネ末を所持する者が、これを他人に交付して注射液の製剤を依頼し、その後注射液として引渡を受けて所持する場合は、塩酸モルヒネ末の所持罪と注射液の所持罪との二罪が成立し併合罪となる。…