所論確定判決を経た事件は、被告人が昭和二四年九月中旬頃新橋駅でAから入手した麻薬を同年一〇月初旬頃神田駅でBに譲渡したとの事案であり、本件犯行は被告人が昭和二四年九月下旬頃本郷肴町附近でC某から譲り受けた麻薬をその頃判示のとおり二回にBに交付したという事案であつて、全然別異の事実関係にあること記録上明白であるから、憲法三九条違反であるとの所論はその前提を欠くものといわなければならない。
麻薬取締法違反罪につき、確定判決を経た罪と同一性のないと認められる一事例
憲法39条後段,麻薬取締法(改正前)3条,麻薬取締法(改正前)57条,刑訴法337条1号
判旨
麻薬の入手経路および譲渡の相手方、時期、場所が異なる事案については、前の確定判決の効力は及ばず、一事不再理の原則(憲法39条)には反しない。
問題の所在(論点)
先行する麻薬譲渡罪の確定判決がある場合に、同時期の別ルートによる麻薬譲受・交付行為について、確定判決の既判力が及び、一事不再理(憲法39条、刑訴法337条1号)によって免訴されるべきか。
規範
確定判決を経た事件と後の事件が、麻薬の入手元、譲渡の相手方、犯行の時期、場所のいずれにおいても別異の事実関係にある場合には、両者は同一の事件とはいえず、一事不再理の効力は及ばない。
重要事実
被告人は昭和24年9月中旬頃にAから入手した麻薬を、同年10月初旬頃にBに譲渡したという事案で確定判決を受けた。その後、昭和24年9月下旬頃にCから譲り受けた麻薬を、同時期にBに対して2回にわたり交付したという事実(本件)で起訴された。
あてはめ
確定判決に係る事件は「Aから入手した麻薬を10月初旬にBに譲渡」したものである。これに対し、本件は「Cから譲受した麻薬を9月下旬にBに交付」したものである。これらは、麻薬の入手先という源泉が異なり、犯行の時期および場所についても具体的な事実関係が重複していない。したがって、両者は全然別異の事実関係にあるといえる。
結論
本件犯行は確定判決の効力が及ぶ範囲外であり、二重処罰の禁止には抵触しないため、上告を棄却する。
実務上の射程
数個の犯罪が包括一罪や常習犯の関係にある場合の既判力の範囲を画定する際の判断基準として機能する。本判決は、客体(麻薬)の入手源や行為の具体的態様が異なれば、時間的・場所的に近接していても別個の事実として扱われることを示唆している。
事件番号: 昭和29(あ)1565 / 裁判年月日: 昭和32年12月19日 / 結論: 棄却
麻薬取締法は、麻薬が人間に対しはなはだしい害毒を流す特質を有することを考慮し、その害毒の流布を防止するため、あらゆる角度から麻薬に関する行為を列挙して、これを処罰の対象としたものと解するを相当とする。そして、麻薬の譲受と譲渡とでは相手方を異にし、行為の態様を異にする別個独立の行為であることはいうをまたない。