麻薬の譲受けとその麻薬の譲渡しは、たとえそれが営利の目的で行われたものでも、犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものではなく、右両罪は併合罪の関係にある。
麻薬の譲受けと譲渡しが営利の目的で行われた場合の罪数関係
麻薬取締法64条の2第1項,麻薬取締法64条の2第2項,刑法45条,刑法54条1項
判旨
営利目的での麻薬の譲受けとその麻薬の譲渡しは、麻薬取締法の規制趣旨に照らし、犯罪の通常の形態として手段または結果の関係にあるとはいえず、併合罪(刑法45条前段)となる。
問題の所在(論点)
営利目的による麻薬の譲受け罪と、その麻薬の譲渡し罪との間に、刑法54条1項後段の牽連犯の関係が認められるか、それとも併合罪となるか。
規範
刑法54条1項後段の「犯罪の手段又は結果である行為」とは、ある罪が他の罪の手段または結果となることが、その犯罪の性質上、社会通念上通常予測される関係にある場合をいう。しかし、麻薬取締法が各行為を個別に規制し、営利目的を共通の加重事由としている点に鑑みれば、譲受けと譲渡しは犯罪の通常の形態として手段・結果の関係にあるとは解されない。
重要事実
被告人は、営利の目的をもって麻薬を譲り受け(第一の事実)、その後、同一の麻薬を営利の目的をもって他者に譲り渡した(第二の事実)。原判決はこれらを併合罪(刑法45条前段)として処断したが、被告人側は、譲受けは譲渡しのための不可欠な手段であるから、両罪は牽連犯(刑法54条1項後段)の関係にあると主張して上告した。
あてはめ
麻薬取締法は、保健衛生上の危害防止のため、輸出入、製造、所持、譲渡し、譲受け等の各態様を独立して規制している。また、営利目的は譲受け・譲渡しの双方に付加された共通の加重事由である。このような法構造を考慮すると、麻薬を売るために買うという一連の過程であっても、譲受けが当然に譲渡しの手段であるといった通常の形態にあるとはいえない。したがって、両行為は独立した犯罪として評価すべきであり、牽連犯にはあたらないと解される。
結論
営利目的による麻薬の譲受け罪と譲渡し罪は、併合罪(刑法45条前段)となる。原判決の判断は正当であり、牽連犯を認めていた従来の高等裁判所判例は変更される。
実務上の射程
麻薬取締法のみならず、覚醒剤取締法等の他の薬物五法における譲受け・譲渡しの関係についても同様に併合罪として扱うべき射程を有する。答案作成上は、一連の犯行であっても各行為が独立して規制されている場合には、牽連犯ではなく併合罪を検討する際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和29(あ)1565 / 裁判年月日: 昭和32年12月19日 / 結論: 棄却
麻薬取締法は、麻薬が人間に対しはなはだしい害毒を流す特質を有することを考慮し、その害毒の流布を防止するため、あらゆる角度から麻薬に関する行為を列挙して、これを処罰の対象としたものと解するを相当とする。そして、麻薬の譲受と譲渡とでは相手方を異にし、行為の態様を異にする別個独立の行為であることはいうをまたない。
事件番号: 昭和48(あ)1984 / 裁判年月日: 昭和50年1月27日 / 結論: 棄却
覚せい剤(粉末〇・四三七グラム)を自宅でテレビの上に置いて所持する罪と、覚せい剤原料(粉末〇・七六一二グラム)を自宅で着衣のポケットに入れて所持する罪とは、併合罪の関係にある。
事件番号: 平成12(あ)1345 / 裁判年月日: 平成15年11月4日 / 結論: 棄却
自動車内において覚せい剤を所持した罪と同車内にとび口を隠して携帯した罪とは,覚せい剤がセカンドバッグに入れて持ち歩いていたものであり,とび口が同車内に積み置いていたものであることなど判示の事実関係の下においては,併合罪の関係にある。