自動車内において覚せい剤を所持した罪と同車内にとび口を隠して携帯した罪とは,覚せい剤がセカンドバッグに入れて持ち歩いていたものであり,とび口が同車内に積み置いていたものであることなど判示の事実関係の下においては,併合罪の関係にある。
自動車内において覚せい剤を所持した罪と同車内にとび口を隠して携帯した罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
刑法45条,刑法54条1項,覚せい剤取締法41条の2第1項,軽犯罪法1条2号
判旨
車両内に置かれた「とび口」の携帯と、同じ車両内に持ち込んだセカンドバッグ内の「覚せい剤」の所持は、行為の態様が異なるため、刑法54条1項前段の「1個の行為」には当たらない。
問題の所在(論点)
車両内に凶器(とび口)を隠匿携帯していた罪(軽犯罪法1条2号)と、同じ車両内に覚せい剤を持ち込み所持していた罪(覚せい剤取締法違反)が、刑法54条1項前段の「1個の行為」に当たり観念的競合となるか、それとも併合罪となるか。
規範
刑法54条1項前段にいう「1個の行為」とは、自然的観察および法的評価において1つの行為といえるものを指す。行為の目的、態様、時間的・場所的連続性を総合的に考慮し、実質的に1個の活動と評価できない場合には、併合罪(刑法45条前段)として処理すべきである。
重要事実
被告人は、以前から「とび口」を自動車の助手席足元の床上に置き、日常的に携帯していた。一方、覚せい剤についてはセカンドバッグに入れて持ち歩いており、本件当日、当該車両の運転席に座った際、そのバッグを助手席シート上に置いた。その約3時間後、警察官による職務質問を受け、両者の所持・携帯が発覚した。
事件番号: 昭和48(あ)1984 / 裁判年月日: 昭和50年1月27日 / 結論: 棄却
覚せい剤(粉末〇・四三七グラム)を自宅でテレビの上に置いて所持する罪と、覚せい剤原料(粉末〇・七六一二グラム)を自宅で着衣のポケットに入れて所持する罪とは、併合罪の関係にある。
あてはめ
とび口については、車両内にあらかじめ積み置くという形で継続的に「携帯」されていたものである。これに対し、覚せい剤については、セカンドバッグに入れて自ら「持ち歩く」という態様で所持されていたものである。両者はたまたま同一の車両内という空間に併存していたに過ぎず、その所持に至る経緯や態様が異なっている。したがって、これらを自然的・法的に1個の行為と評価することはできない。
結論
被告人の行為は1個の行為とは評価できず、覚せい剤所持罪と軽犯罪法違反の罪は併合罪の関係に立つ。
実務上の射程
同一の場所(車両内や居室内など)で複数の禁制品が発見された場合でも、それぞれの所持に至る経緯や保持の態様が異なる場合には、観念的競合ではなく併合罪となることを示した事例。答案上では、行為の個数判断において「態様の差異」を重視する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和52(あ)1278 / 裁判年月日: 昭和52年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合を指し、覚せい剤の輸入行為が同時に関税法違反となる場合は観念的競合にあたる。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上で輸入が禁止されている覚せい剤(塩酸フエニルメチルアミノプロパン結…
事件番号: 昭和53(あ)2288 / 裁判年月日: 昭和54年12月14日 / 結論: 棄却
麻薬の譲受けとその麻薬の譲渡しは、たとえそれが営利の目的で行われたものでも、犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものではなく、右両罪は併合罪の関係にある。
事件番号: 昭和30(あ)1665 / 裁判年月日: 昭和31年1月12日 / 結論: 棄却
昭和二八年三月一〇日頃から同年六月末日頃までの間に接続して一一回に覚せい剤を譲受けた行為と、その覚せい剤の一部を同年七月一四日頃居宅炊事場の石油罐または土蔵内にそれぞれ隠匿所持していた行為とは、各別個の罪を構成し併合罪となる。
事件番号: 昭和51(あ)661 / 裁判年月日: 昭和51年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤を隠匿携帯して本邦に搬入し、税関を通過する際に発見された場合、覚せい剤取締法違反(輸入)と関税法違反(無許可輸入)は、自然的・社会的見解上一個の行為と評価でき、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上輸入が禁止され、かつ関税定率法上の有税…