一 昭和二〇年勅令第五四三號「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ發スル命令ニ關スル件ノ施行ニ關スル件第二項には「前項ノ閣令及省令ニ規定スルコトヲ得ル罰ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮、五千圓以下ノ罰金、科料、拘留及五千圓以下ノ過料トス」とあつて、この法文を明治二三年法律第八四號命令ノ條項違反ニ關スル罰則ノ件中の「命令ノ條項ニ違反スル者ハ各其ノ命令ニ規定スル所ニ從ヒ二百圓以内ノ罰金若ハ一年以内の禁錮(刑法施行法第一九條第一項但書により懲役又は禁錮に變更)ニ處ス」とある法文と對比し且つ刑法第二五六條第二項中の「十年以下ノ懲役及ビ千圓以下ノ罰金ニ處ス」との法文をも参酌すれば、右勅令における制裁のごとく「及」で一括してある場合には「若ハ」または「又ハ」で一括してある場合と異り制裁の併科を妨げない趣旨であると解するを相當とする。 二 舊麻藥取締規則第四二條は麻藥を所有又は所持する静的な行爲を取締るものであり同第二四條は麻藥を製劑、小分、販賣、授與又は使用する動的な行爲を取締るものである。そして後者に當然伴う麻藥の握持行爲は後者に吸收され特に所持として罰すべきものではないが、かゝる場合でない前の違反行爲と後の違反行爲とは必ずしも通常手段結果の關係があるものといえないばかりでなく、その取締の目的と法益とを異にするから、各獨立した別罪を構成するものと解すると相當とする。
一 昭和二〇年勅令第五四三號第二項と過科の併科 二 舊麻藥取締規則第四二條所定の所有又は所持と同第二四條の製劑、小分、販賣、授與又は使用との關係
昭和20年勅令543號ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ發スル命令ニ關スル件ノ施行ニ關スル件2項,昭和21年厚生省令25號麻藥取締規則42條,昭和21年厚生省令25號麻藥取締規則24條,刑法54條1項後段
判旨
麻薬の所持(静的行為)と、その後の売渡(動的行為)は、それぞれ取締の目的と法益を異にするため、手段・結果の関係にあるとはいえず、各独立した別罪として併合罪の関係に立つ。
問題の所在(論点)
麻薬の所持行為と、その後の売渡(販売)行為は、一罪(吸収関係や手段結果の関係)として処理されるべきか、それとも併合罪となるか。各罪の法益と取締目的の差異が問題となる。
規範
麻薬の所有・所持を規制する規定は静的な行為を、製剤・販売・使用等を規制する規定は動的な行為をそれぞれ取締の対象とする。後者の動的行為に当然に伴う握持行為は当該動的行為に吸収されるが、それ以外の別個の所持行為と販売行為等は、通常手段・結果の関係にあるとはいえず、取締の目的と法益を異にするため、各独立した別罪を構成し併合罪となる。
重要事実
被告人は、一定期間にわたり麻薬を所持していた(判示第一の(一))。その後、被告人は約9回にわたり、診療所においてアトロピンやモルヒネの注射液計600本を売渡した(判示第一の(二))。原審は、これら所持行為と売渡行為を別個の罪と認め、併合罪(刑法45条、47条)として処断したため、被告人が上告した。
あてはめ
旧麻薬取締規則によれば、42条は所有・所持という「静的な行為」を、24条は販売等の「動的な行為」を規制対象としている。本件の所持行為は、販売行為に当然に伴う一時的な握持行為とは異なり、独立して静的な保持を継続していたものである。両行為は取締の目的及び保護法益を異にする別個の類型であるから、一方の行為が他方に吸収されるものではなく、また牽連犯(手段結果の関係)にも当たらない。したがって、両者は併合罪として処断されるべきである。
結論
被告人の麻薬所持行為と売渡行為を併合罪と認めて刑法45条を適用した原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
罪数論における「法条競合・吸収関係」と「併合罪」の区別に関する判断枠組みを示す。行為の動態(静的vs動的)や保護法益の異同から、密接に関連する行為であっても別罪構成を認める実務上の指針となる。特に薬物事犯において、所持と譲渡・使用の罪数関係を検討する際の基礎的判例である。
事件番号: 昭和24(れ)2770 / 裁判年月日: 昭和25年7月21日 / 結論: 棄却
麻藥取締規則(昭和二一年厚生省令第二五號)施行中において不法に麻藥を所持した行爲とその所持者が自らこれを自己の身体に使用した行爲とは各別罪を構成する
事件番号: 昭和27(あ)411 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
麻薬中毒患者が自己の中毒症状緩和のため使用する目的をもつて、麻薬を譲り受け所持する場合には、右譲り受ける行為と所持する行為とはこれを包括し、一罪を構成するものと解すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)2803 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
一 旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第三条にいう「譲り渡し」とは、所有権の移転を目的とする麻薬の授受の場合に限られない。 二 塩酸モルヒネ末を所持する者が、これを他人に交付して注射液の製剤を依頼し、その後注射液として引渡を受けて所持する場合は、塩酸モルヒネ末の所持罪と注射液の所持罪との二罪が成立し併合罪となる。…