麻薬中毒患者が自己の中毒症状緩和のため使用する目的をもつて、麻薬を譲り受け所持する場合には、右譲り受ける行為と所持する行為とはこれを包括し、一罪を構成するものと解すべきである。
麻薬中毒患者が自己の中毒症状緩和のため使用する目的をもつて麻薬を譲り受け所持する場合と罪数
麻薬取締法(昭和28年法律第14号による改正前のもの)3条1項,麻薬取締法(昭和28年法律第14号による改正前のもの)57条1項
判旨
自己の麻薬中毒症状緩和のため使用する目的で麻薬を譲り受ける行為と、その譲り受けた麻薬を所持する行為は、麻薬取締法上、包括一罪と解するのが相当である。
問題の所在(論点)
自己の麻薬中毒症状緩和の目的で麻薬を譲り受け、その麻薬を所持した場合において、譲り受けの罪と所持の罪はどのような罪数関係に立つか。また、所持罪の確定判決の効力が譲り受けの事実に及ぶか(刑訴法337条1号)。
規範
麻薬取扱者でない者が麻薬を所持し、または譲り受ける行為は、原則として各独立した別罪を構成する。もっとも、譲り受けた者がその麻薬を所持することを許容する同法の規定の趣旨に照らせば、自己の使用目的で麻薬を譲り受け、これを所持するに至った場合には、両者は社会通念上一連の行為として把握でき、包括して一罪(包括一罪)となる。
重要事実
被告人は、自己の麻薬中毒症状を緩和させるために使用する目的で麻薬を譲り受けた。その後、譲り受けた当該麻薬を継続して所持していた。この所持の事実について既に有罪の確定判決が存在していたところ、別途、譲り受けの事実についても起訴がなされた。原審は、所持と譲り受けは通常手段結果の関係にある牽連犯(実質的には包括一罪の趣旨)であり、確定判決の効力が譲り受けにも及ぶとして免訴等の判断をしたため、検察官が上告した。
あてはめ
本件では、被告人の目的が「自己の麻薬中毒症状緩和のため使用すること」にあり、その手段として譲り受け、結果として所持が生じている。麻薬取締法3条1項但書が、適法に譲り受けた者がその麻薬を所持することを認めている規定の構造からすれば、譲り受けとそれに伴う所持は法的に密接不可分な関係にあるといえる。したがって、これらは別罪を構成せず包括して一罪と解される。既に所持の事実について有罪判決が確定している以上、その判決の効力(既判力)は、包括一罪の関係にある譲り受けの事実にも及ぶこととなる。
結論
自己使用目的の麻薬譲り受けと所持は包括一罪である。所持につき確定判決がある場合、その効力は譲り受けの行為にも及ぶ。
実務上の射程
薬物事犯における譲り受け・譲り渡しと所持の罪数関係を検討する際の基礎となる判例である。営利目的がない自己消費目的の場合、譲り受けから所持への流れを包括一罪として処理する実務上の指針となる。もっとも、現行法(麻薬及び向精神薬取締法)下でも同様の理が妥当するが、譲り受けた直後ではない別個の所持(長期間の保管や別ルートでの入手等)については別罪併合罪となる可能性がある点に留意が必要である。
事件番号: 昭和40(あ)2468 / 裁判年月日: 昭和42年6月23日 / 結論: 棄却
たとえ行為者が麻薬中毒者であつても、麻薬を他人から譲り受ける行為とこれを自己に施用する行為とは併合罪の関係となる。
事件番号: 昭和28(あ)2803 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
一 旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第三条にいう「譲り渡し」とは、所有権の移転を目的とする麻薬の授受の場合に限られない。 二 塩酸モルヒネ末を所持する者が、これを他人に交付して注射液の製剤を依頼し、その後注射液として引渡を受けて所持する場合は、塩酸モルヒネ末の所持罪と注射液の所持罪との二罪が成立し併合罪となる。…