被害者、Aは被告人から欺かれ、示された山林を一括して買い取るつもりで、その代金として三萬五千圓を被告人に交付したのであつて右山林の中被告人所有の部分とB所有の部分とを各別に評價してその合計額を三萬五千圓と算出したのではない。しかも後者の部分は買い取ることができなかつたのである。このように賣買の代金が一括して不可分に定められている場合には、たといその目的物の一部分は實際に買い取ることができたとしても、代金の金額を騙取されたものと認めることができる。從つて原判決は、被告人は「金三萬五千圓の交付を受けて之を騙取した」と判示したことには、所論のような違法はない。
賣買の代金が一括して不可分に定められている目的物の一部を買取つた者が代金の全部を騙取された場合と詐欺罪の成立
刑法146條1項
判旨
売買代金が一括して不可分に定められている場合、目的物の一部が取得可能であっても、欺罔によって交付させた代金全額について詐欺罪の既遂が成立する。また、再犯加重の起算点となる刑の執行終了日は、仮出獄の期間が満了した日を基準とする。
問題の所在(論点)
1. 目的物の一部が真実被告人の所有であった場合、詐欺罪の騙取額は代金全額か、それとも取得不能な部分に相当する額に限定されるか(詐欺罪の既遂時期と客体)。 2. 仮出獄を経て刑期を満了した場合の再犯加重(刑法56条1項)の起算点はいつか。
規範
売買代金が一括して不可分に定められている場合において、欺罔行為により相手方を錯誤に陥らせて代金を交付させたときは、目的物の一部に瑕疵がないとしても、交付させた代金全額が騙取金額となる。また、刑法56条1項の再犯加重における「刑の執行を終わった日」とは、仮出獄中の者が残任期間を無事に経過して刑の執行を終えたものとみなされる日を指す。
重要事実
被告人は、他人の所有地を含む山林をあたかも一括して売却できるかのように装い、被害者Aを欺いた。Aは山林全体を買い取るつもりで、代金3万5000円を一括して被告人に交付した。実際には、当該山林の一部は被告人所有であったが、他の一部は第三者Bの所有であり、被告人はこれを取得・譲渡することができなかった。また、被告人は過去の懲役刑につき仮出獄中であったが、前刑の刑期満了日から5年以内に本件犯行に及んでいた。
あてはめ
1. 被害者は山林を一括して買い取る意思で代金を交付しており、各部分を個別に評価して代金を算出した形跡はない。代金が不可分の一体として定められている以上、目的物の一部が取得可能であったとしても、そのことが代金全額の交付という処分行為に直結しているため、代金全額(3万5000円)の騙取が認められる。 2. 仮出獄は刑の執行終了ではない。仮出獄の処分が取り消されずに残りの刑期を経過したときに初めて刑の執行を終わったものとされるため、本件では当初の刑期満了日である昭和18年3月7日が起算点となる。本件犯行(昭和23年2月28日)は、その日から5年以内に行われており、再犯加重の要件を満たす。
結論
被告人は3万5000円全額の詐欺罪に問われ、かつ再犯加重の対象となる。原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
詐欺罪における損害の算定において、交付された財物の個別性・不可分性を重視する判断枠組みを示す。また、再犯の要件における「刑の執行終了」の意義を確認する実務上の意義がある。
事件番号: 昭和26(あ)4613 / 裁判年月日: 昭和28年4月2日 / 結論: 棄却
約定よりも品質の悪い木炭の交付を手段として約定の品質の木炭の代金に相当する金員を不可分的に騙取した場合はその金員全額について詐欺罪が成立する。
事件番号: 昭和25(れ)605 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
被告人が原判示のような経過により、A無尽株式会社において、同会社係員から、無尽落札金として十三万九百十七円五十銭の交付を受けるに当つて、たとえ所論のように、その一部につき、現金授受の手続を省略し、これをただちに同会社に対する従前の借受金等の支払にあてたとしても、その金額を控除しない全額について、刑法第二四六条第一項の詐…