被告人が原判示のような経過により、A無尽株式会社において、同会社係員から、無尽落札金として十三万九百十七円五十銭の交付を受けるに当つて、たとえ所論のように、その一部につき、現金授受の手続を省略し、これをただちに同会社に対する従前の借受金等の支払にあてたとしても、その金額を控除しない全額について、刑法第二四六条第一項の詐欺罪が成立するものと解すべきである。
無尽会社において落札金名下に金員の交付を受けてこれを騙取しその一部を右会社に対する借受金の支払にあてた場合と詐欺罪
刑法246条
判旨
詐欺罪における交付金額の算定について、交付される金員の一部が現金受領されず従前の債務の支払に充当された場合であっても、控除前の全額について詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
欺罔行為により金員の交付を受ける際、その一部が従前の債務の弁済に充当され、現実の現金授受が省略された場合、詐欺罪の既遂額はどのように算定されるか。充当額を控除した現実に授受された金額のみに限定されるかが問題となる。
規範
刑法246条1項の詐欺罪における財物の交付及びその額については、現金の授受という形式的側面のみならず、欺罔行為によって得た経済的利益の総体を基準に判断すべきである。したがって、交付されるべき金員の一部について現金授受の手続を省略し、債務弁済等に充当したとしても、当該充当額を含めた全額を交付されたものと解するのが相当である。
重要事実
被告人は、偽造された書面等を用いる欺罔行為によって、A無尽株式会社の係員から無尽落札金として13万917円50銭の交付を受けた。その際、落札金の一部については現金の授受という手続を経ることなく、同会社に対する従前の借受金等の支払に直ちに充当する処理がなされた。弁護人は、現金として現実に授受されていない充当額分については、詐欺罪の成立を否定すべきであると主張して上告した。
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…
あてはめ
本件において、被告人は13万917円50銭全額の受領権限を仮装して欺罔行為に及んでいる。交付の過程において、一部の金員について現実の現金授受という手続を省略し、被告人が負っていた従前の借受金等の債務弁済に充てたとしても、それは交付された金員の処分方法の態様に過ぎない。被告人は当該充当によって債務を免れるという経済的利益を得ており、会社側は全額について処分意思に基づく交付を行っているといえる。したがって、現金授受の有無にかかわらず、充当額を含む全額について財物の交付があったと認められる。
結論
無尽落札金として交付を受けるにあたり、一部につき現金授受の手続を省略し債務の支払に充てたとしても、その金額を控除しない全額について詐欺罪が成立する。
実務上の射程
詐欺罪における「財物の交付」の範囲に関する重要判例である。被害額(既遂額)の算定において、相殺や充当が行われた場合でも、欺罔の対象となった総額をもって既遂額とする実務上の扱いの根拠となる。答案上では、一部弁済済みの場合や天引きが行われた場合の既遂額の認定において本法理を援用できる。
事件番号: 昭和24(れ)822 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
中京区役所第四駐在員事務所主任ではなく単なる同事務所の事務員であつて主任を補助して事務を執つている者にすぎない者は転出証明書を作成交付する権限のない者であるから同人が擅に行使の目的を以つて内容虚偽の転出証明書を作成したことは刑法一五五条の公文書偽造であつて、同法一五六条の犯罪にはならない。
事件番号: 昭和26(あ)1640 / 裁判年月日: 昭和27年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽の書面を作成・行使して他人を欺罔し財物を交付させた場合、たとえ私文書偽造・同行使罪の成立が否定されたとしても、詐欺罪(刑法246条)が成立することに妨げはない。 第1 事案の概要:被告人は、虚偽の内容を含む書面を作成し、これを用いて相手方を欺き、金員等の交付を受けたとされる事案。第一審判決は私…