裁判所は公判手續において、事實審理に入るに先立つて、被告人又は辯護人から公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについてその判斷開示の請求があつた場合においても、先づその判斷を示すことを要しないし、また裁判所が右の如き判斷を示すことなく事實審理に入ることをもつて、所論の如く、「有罪の豫斷を抱かしむろもの」とか「被告人に恐怖を強いる」ものとかいうことのできないことは勿論原裁判所の公判において裁判官が昭和二三年政令第二〇一號が有効か無効かについて判斷を示すことなく辯護人の申請を却下する旨決定を言渡し、事實審理に入つたこと、並びに原裁判所が前記異議申立却下の決定において、これを是認したことは、いかなる點においても憲法に違反するところのないことは當裁判所の判例(昭和二三年(つ)第二六號、同年一一月九日大法廷決定)に徴して明らかである。
裁判所が事實審理に先だち刑罰法令が違憲無効であるか否かについての被告人の請求に對する判斷の要否と有罪の豫斷
憲法37條,憲法38條,憲法81條
判旨
裁判所は、公判手続の事実審理に先立って、被告人側から刑罰法令の違憲・無効に関する判断開示の請求があっても、直ちにその判断を示す義務はない。
問題の所在(論点)
事実審理の開始に先立ち、適用法令の憲法適合性について裁判所が判断をあらかじめ開示する義務を負うか、およびその不開示が有罪の予断等の不当な影響を被告人に与えるか。
規範
裁判所は、公判における事実審理の開始に先立ち、起訴状記載の罪名の根拠となる刑罰法令が違憲・無効であるか否かについて、被告人等からの請求に基づき判断をあらかじめ開示する必要はない。また、裁判所が当該判断を示さずに事実審理を開始することは、有罪の予断を抱かせるものや被告人に不当な圧迫を加えるものとはいえず、憲法上も適法である。
重要事実
事件番号: 昭和23(つ)15 / 裁判年月日: 昭和23年9月27日 / 結論: 棄却
裁判所が公判手続において事実審理に入るに先立つて起訴状に記載された罪名の根拠となる刑罰法令が効力を有するか否かということについて判断を示すことを要する旨の刑事訴訟法の規定は存しないし、又憲法の規定若しくはその全趣旨からもかかる要請があるものとは認められない。そしてこの理はその刑罰法令が本件で問題となつた昭和二三年政令第…
被告人側は、公判手続の開始にあたり、適用される刑罰法令(昭和23年政令第201号)が違憲・無効であるか否かについて裁判所の判断を示すよう求めた。しかし、原裁判所は当該判断を示すことなく弁護人の申請を却下し、事実審理を開始した。これに対し、被告人側が裁判所の措置は有罪の予断を抱かせるなどとして抗告した事案である。
あてはめ
裁判所は刑事訴訟手続において、実体審理を通じて最終的に法令の適用・判断を行うべき立場にある。本件において、原裁判所が法令の有効性について先行して判断を示さずに事実審理に入ったことは、手続上の裁量の範囲内である。これを「有罪の予断を抱かしめる」あるいは「被告人に恐怖を強いる」ものと評価することはできず、憲法上の権利を侵害するような違法な点も認められない。
結論
裁判所は、事実審理に先立って法令の違憲性の判断を示す必要はなく、示さずに審理を開始した原審の判断は正当である。
実務上の射程
刑事訴訟における裁判所の訴訟指揮権の範囲と、違憲審査のタイミングに関する判例である。公判前整理手続等がある現代においても、実体審理に先立つ実体法上の論点の「事前判断」を強制できないという一般原則の根拠として利用できる。
事件番号: 昭和24(つ)7 / 裁判年月日: 昭和24年3月2日 / 結論: 棄却
裁判所が公判手續において、事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについて、豫めその判斷を示さなくても、憲法の規定又はその精神に反するものでないことは當裁判所の判例とするところである。
事件番号: 昭和23(つ)26 / 裁判年月日: 昭和23年11月5日 / 結論: 棄却
一 裁判所が事實審理に先だち或る法令の適憲有効を認識していたとしても、それをもつて「直ちに有罪の豫斷を抱くもの」と速斷することは許されない。したがつて、それを以て憲法第三八條及び第三七條に違反するものと云うことはできない。 二 裁判所が公判手續において事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰…
事件番号: 昭和23(つ)29 / 裁判年月日: 昭和23年11月29日 / 結論: 棄却
裁判所が公判手續において事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについては、たとい、被告人、辯護人又は檢察官からその判斷の開示の請求があつた場合においても、先ずその判斷を示すことを要しないものと解するを相當とする。けだし、刑事訴訟法にはかかる判斷を先ず示すことを要す…
事件番号: 昭和24新(つ)5 / 裁判年月日: 昭和24年9月7日 / 結論: 棄却
公判期日において刑訴法第一四六條により証言を拒んだ証人並びに供述をした証人の檢察官に対する各供述録取書及び被告人の司法警察職員に対する供述録取書を、檢察官が証拠として提出したのに対して、弁護人から証人の右供述録取書は同法第三二一條第一項第二号に定める要件を備えていないものであり、被告人の右供述録取書は同法第三二二條によ…