裁判所が公判手続において事実審理に入るに先立つて起訴状に記載された罪名の根拠となる刑罰法令が効力を有するか否かということについて判断を示すことを要する旨の刑事訴訟法の規定は存しないし、又憲法の規定若しくはその全趣旨からもかかる要請があるものとは認められない。そしてこの理はその刑罰法令が本件で問題となつた昭和二三年政令第二〇一号の場合であつても何等異るところはない。
起訴状に記載された罪名の根拠となる刑罰法令の効力についての判断を事実審理の前に示すことの要否
刑訴法291条,刑訴法348条,刑訴法345条
判旨
裁判所が事実審理を開始するに当たり、起訴状記載の罰則の合憲性・有効性について事前に判断を示す義務はなく、終局判決において判断すれば足りる。
問題の所在(論点)
刑事裁判において、裁判所は事実審理に入る前に、適用される刑罰法令の有効性や合憲性について判断を示す義務を負うか。
規範
裁判所が公判手続において事実審理に入るに先立ち、罪名の根拠となる刑罰法令の有効性(合憲性を含む)について判断を示すべきことを要請する規定は、刑事訴訟法上も憲法上も存在しない。法令の効力に関する判断は、原則として最終判決においてなされるべきものである。
重要事実
被告人らが昭和23年政令第201号違反で起訴された際、弁護人は同政令が無効であり適用すべき罰則がないとして公訴棄却を求めた。裁判長は、この主張は公訴棄却事由に当たらないとして事実審理に入ると告げた。これに対し弁護人は、政令の有効性について判断せずに審理に入るのは憲法違反であるとして、裁判長の訴訟指揮に対し異議を申し立てたが、却下されたため特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和23(つ)26 / 裁判年月日: 昭和23年11月5日 / 結論: 棄却
一 裁判所が事實審理に先だち或る法令の適憲有効を認識していたとしても、それをもつて「直ちに有罪の豫斷を抱くもの」と速斷することは許されない。したがつて、それを以て憲法第三八條及び第三七條に違反するものと云うことはできない。 二 裁判所が公判手續において事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰…
あてはめ
刑事訴訟法には、事実審理に先立って刑罰法令の効力を判断すべきとの明文規定はない。また、憲法の規定やその趣旨に照らしても、実体判決に先立つ事前判断を要請する根拠は見当たらない。本件で問題となった政令第201号についても、他の法令と同様、事実審理を経て最終判決においてその有効性を判断すれば足りる。したがって、判断を留保したまま事実審理に入った裁判長の訴訟指揮には憲法・法上の違法はない。
結論
裁判所が法令の有効性に関する判断を示さずに事実審理を開始することは、刑事訴訟法及び憲法に違反しない。
実務上の射程
刑事手続における審理の順序に関する基本原則を示す。法令の違憲・無効を理由とする公訴棄却の申立て等がなされた場合でも、裁判所には先行判断の義務はなく、審理を継続した上で終局判決(実体判決)の中で判断すればよいという実務上の取り扱いを正当化する際に用いる。
事件番号: 昭和23(つ)29 / 裁判年月日: 昭和23年11月29日 / 結論: 棄却
裁判所が公判手續において事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについては、たとい、被告人、辯護人又は檢察官からその判斷の開示の請求があつた場合においても、先ずその判斷を示すことを要しないものと解するを相當とする。けだし、刑事訴訟法にはかかる判斷を先ず示すことを要す…
事件番号: 昭和24(つ)7 / 裁判年月日: 昭和24年3月2日 / 結論: 棄却
裁判所が公判手續において、事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについて、豫めその判斷を示さなくても、憲法の規定又はその精神に反するものでないことは當裁判所の判例とするところである。
事件番号: 昭和24(つ)50 / 裁判年月日: 昭和24年7月27日 / 結論: 棄却
裁判所は公判手續において、事實審理に入るに先立つて、被告人又は辯護人から公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについてその判斷開示の請求があつた場合においても、先づその判斷を示すことを要しないし、また裁判所が右の如き判斷を示すことなく事實審理に入ることをもつて、所論の如く、「有罪の豫斷を抱…
事件番号: 昭和23(つ)36 / 裁判年月日: 昭和24年1月18日 / 結論: 棄却
一 裁判所は、公判手続において、事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である、刑罰法令が違憲無効であるか否かについて、たとい被告人、辯護人又は檢察官からその判斷の開示の請求があつた場合においても、先づその判斷を示すことを要しない。 二 裁判所が公判手続において、事實審理に入るに先立つて、公判請求書に…