一 裁判所が事實審理に先だち或る法令の適憲有効を認識していたとしても、それをもつて「直ちに有罪の豫斷を抱くもの」と速斷することは許されない。したがつて、それを以て憲法第三八條及び第三七條に違反するものと云うことはできない。 二 裁判所が公判手續において事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについては、たとい被告人、辯護人又は檢察官からその判斷の開示の請求があつた場合においても、先すその判斷を示すことを要しないものと解するを相當とする。 三 或る法令が適憲有効であるか否かについて判斷を先づ示すことなく事實審理に入ることをもつて、所論のごとく「有罪の豫斷を抱くもの」とか又は「被告人に恐怖を強いる」ものと言うことのできないのは勿論である。したがつて、それを以て、憲法第三八條及び同第三七條に違反するものと云うことはできない。
一 裁判所が事實審理に先だち或る法令の適憲有効を認識していたことと有罪の豫斷(憲法第三八條及び第三七條の關係 二 裁判所が事實審理前請求書記載の罪名の基本たる刑罰法令の違憲無効たるか否かにつき判斷することの要否 三 裁判所が事實審理に先だち或る法令の適憲有効であるか否かについて判斷を示さなかつたことと憲法第三八條及び第三七條
憲法38條,憲法37條
判旨
裁判所は事実審理に先立ち罰則の合憲性について判断を示す必要はなく、判断を示さないことが有罪の予断や憲法37条・38条違反を構成することもない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟において、裁判所は公判手続の事実審理に先立ち、適用法令の合憲性について判断を示す義務を負うか。また、その判断を示さないまま審理を進めることは、公平な裁判所の要請や黙秘権等の憲法規定に反する「有罪の予断」を構成するか。
規範
裁判所が事実審理に入るに先立ち、罰則の基礎となる法令が違憲無効であるか否かについて、当事者から開示請求があった場合でも、まずその判断を示す必要はない。また、法令の合憲性に関する判断を示さずに事実審理に入ることが、直ちに犯行の事実存在について先入感を持つという意味での「有罪の予断」にあたることもない。
事件番号: 昭和23(つ)29 / 裁判年月日: 昭和23年11月29日 / 結論: 棄却
裁判所が公判手續において事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについては、たとい、被告人、辯護人又は檢察官からその判斷の開示の請求があつた場合においても、先ずその判斷を示すことを要しないものと解するを相當とする。けだし、刑事訴訟法にはかかる判斷を先ず示すことを要す…
重要事実
被告人が、起訴の根拠となった政令の有効性が客観的に明らかであると主張し、事実審理の前にその合憲性についての判断を示すよう求めた事案。原審が判断を示さずに事実審理を進めたことに対し、被告人は、政令の有効を前提とすることは有罪の予断を抱くものであり、憲法37条・38条の趣旨に反するとして抗告した。
あてはめ
刑事訴訟法上、事実審理に先立って合憲性の判断を示すべき旨の規定は存在せず、憲法の明文や精神からもそのような要請は認められない。そもそも「有罪の予断」とは、犯行事実の存否について予め先入感を持つことを指す。裁判官が法律の解釈や憲法適合性について職権に基づき独立した法律観を持つことは、事実認定に関する予断とは別個の次元であり、判断の不開示が被告人に不当な恐怖を強いるものともいえない。
結論
裁判所は事実審理に先立って法令の合憲性に関する判断を示す必要はなく、不開示のまま審理を進めることは憲法37条・38条に違反しない。
実務上の射程
刑事手続における審理の順序に関する裁判所の裁量を認めたもの。実務上、前提となる法令の違憲主張がなされた場合でも、裁判所は判決において最終的に判断を示せば足り、中間決定等で事前に判断を示す必要がないことを論証する際に活用できる。
事件番号: 昭和24(つ)7 / 裁判年月日: 昭和24年3月2日 / 結論: 棄却
裁判所が公判手續において、事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについて、豫めその判斷を示さなくても、憲法の規定又はその精神に反するものでないことは當裁判所の判例とするところである。
事件番号: 昭和23(つ)36 / 裁判年月日: 昭和24年1月18日 / 結論: 棄却
一 裁判所は、公判手続において、事實審理に入るに先立つて、公判請求書に記載された罪名の基本である、刑罰法令が違憲無効であるか否かについて、たとい被告人、辯護人又は檢察官からその判斷の開示の請求があつた場合においても、先づその判斷を示すことを要しない。 二 裁判所が公判手続において、事實審理に入るに先立つて、公判請求書に…
事件番号: 昭和23(つ)15 / 裁判年月日: 昭和23年9月27日 / 結論: 棄却
裁判所が公判手続において事実審理に入るに先立つて起訴状に記載された罪名の根拠となる刑罰法令が効力を有するか否かということについて判断を示すことを要する旨の刑事訴訟法の規定は存しないし、又憲法の規定若しくはその全趣旨からもかかる要請があるものとは認められない。そしてこの理はその刑罰法令が本件で問題となつた昭和二三年政令第…
事件番号: 昭和24(つ)50 / 裁判年月日: 昭和24年7月27日 / 結論: 棄却
裁判所は公判手續において、事實審理に入るに先立つて、被告人又は辯護人から公判請求書に記載された罪名の基本である刑罰法令が違憲無効であるか否かについてその判斷開示の請求があつた場合においても、先づその判斷を示すことを要しないし、また裁判所が右の如き判斷を示すことなく事實審理に入ることをもつて、所論の如く、「有罪の豫斷を抱…