一 かりに最低限度の生活すら營み得ないで罪を犯したとしても、その行爲が憲法第二五條第一項の規定あるによつて正當化され或は實刑を兔れるわけのものではない。昭和二二年(れ)第二〇五號同二三年九月二九日大法廷判決參照)。 二 被告人に實刑を科するため、その家族が生活困難に陷るとしてもその判決は憲法第二五條に違反するものでないことは、先に當裁判所の判例として示したところである(昭和二二年(れ)第一〇五號同二三年四月七日大法廷判決)。
一 最低限度の生活を營み得ないで罪を犯した場合と憲法第二五條第一項 二 被告人に實刑を科するため家族が生活困難に陷る場合と憲法第二五條第一項
憲法25條1項
判旨
憲法25条1項は国家の責務を宣言したものであり、個々の国民に対して具体的・現実的な生活権を直接付与するものではない。したがって、生存権を侵害されている状態での犯罪であっても正当化されず、量刑の判断は事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。
問題の所在(論点)
憲法25条1項が、個別の刑罰権の行使(実刑判決)を制限する具体的な権利を国民に付与しているか。また、生活困窮下での犯罪や服役による家族の生活困難が、憲法25条を根拠に判決の違憲性を基礎付けるか。
規範
憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国家の責務として宣言した規定であり、個々の国民に対し、直接に国家に対して具体的現実的な生活権を付与するものではない。犯罪の成否や実刑を科すべきか否かの判断は、同規定とは関わりなく、諸般の事情を考慮した事実審裁判所の広範な裁量に委ねられる。
重要事実
被告人は犯罪に及んだが、その原因は被告人が最低限度の生活すら営み得なかったことにあると主張した。また、実刑を科されることによって、被告人の家族が生活困難に陥ることも併せて主張し、被告人に執行猶予を付さず実刑を言い渡した原判決は憲法25条に違反するとして上告した。
あてはめ
憲法25条1項が具体的権利を直接付与しない以上、たとえ被告人が最低限度の生活を営めていなかったとしても、その犯罪行為が同条により正当化されることはなく、実刑を免れる根拠にもならない。さらに、服役によって家族が生活困難に陥るとしても、それは刑罰の付随的結果に過ぎず、事実審裁判所が諸般の事情を考慮して実刑を選択したことは専権的な裁量の範囲内である。
結論
被告人の行為が生存権の侵害状態に起因するものであっても、実刑を科した判決は憲法25条に違反しない。上告棄却。
実務上の射程
生存権の法的性格について、プログラム規定説に近い立場(抽象的権利説的側面も含む)を、刑事罰との関係で示した初期の判例である。行政訴訟のみならず、生存権を理由とする違法性阻却や責任阻却、または量刑不当の主張に対する反論の枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和26(あ)364 / 裁判年月日: 昭和27年5月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条1項は、国家に対し国民一般の生活を保障する責務を課す抽象的趣旨にとどまり、国民が直接に具体的・現実的な権利を有するものではない。したがって、生存を維持できない窮乏状態であっても、同条を根拠に犯罪行為が正当化されることはない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において犯罪行為に及んだが、…