判旨
憲法25条の生存権規定を根拠に、困窮を理由とする犯罪行為の刑事責任を否定することはできない。生存権の保障は国の責務であるが、それは個別の犯罪行為における責任阻却事由を基礎付けるものではない。
問題の所在(論点)
生命維持のために困窮した状況下で行われた犯行について、憲法25条に基づき刑事責任が阻却されるか。また、そのような主張が憲法違反の上告理由となり得るか。
規範
憲法25条は国が国民の生存を保障すべき責務を負うことを示す規定であり、生存を維持するためにやむを得ず行われた犯行であっても、同条を直接の根拠として刑事責任が当然に阻却されるという関係にはない。
重要事実
被告人が、自身およびその妻子の生命を維持するために本件犯行(判決文からは罪名の詳細は不明)に及んだ。被告人側は、生存のためにやむを得なかった行為であり、刑事責任を科すことはできないとして、憲法25条違反を主張した。
あてはめ
最高裁は、本件犯行が妻子等の生命維持のためにやむを得なかったかどうかという問題は、憲法25条自体の存否や解釈に関する問題ではないと判示した。すなわち、生活困窮という事実関係から導かれる責任阻却の可否は、あくまで刑法上の責任阻却事由(緊急避難等)の成否という法律論の問題に帰着し、憲法問題には該当しないと判断した。
結論
憲法25条違反を理由とする上告は認められない。生活困窮による犯行であっても、同条により当然に刑事責任が免除されるものではない。
実務上の射程
生存権の抽象的権利性を前提に、個別の刑事訴訟において憲法25条を直接引いて無罪を主張することの困難さを示す。答案上は、緊急避難(刑法37条)の要件検討において「補充性」や「法益の権衡」を議論する際の背景事情として言及するに留まり、憲法上の権利から直接責任阻却を導く論理は否定されるべきである。
事件番号: 昭和23(れ)635 / 裁判年月日: 昭和23年10月16日 / 結論: 棄却
一 かりに最低限度の生活すら營み得ないで罪を犯したとしても、その行爲が憲法第二五條第一項の規定あるによつて正當化され或は實刑を兔れるわけのものではない。昭和二二年(れ)第二〇五號同二三年九月二九日大法廷判決參照)。 二 被告人に實刑を科するため、その家族が生活困難に陷るとしてもその判決は憲法第二五條に違反するものでない…