一 刑法第四三條にいわゆる「犯罪の實行に着手し之を遂げざるもの」とは、その行爲を以て犯人の豫見する結果を惹起することができる實行行爲に着手し、その犯罪を遂げなかつた場合を意味し、その實行行爲を以ては絶對に犯人の豫見する結果を惹起することができない場合には、同條の未遂罪を以て論ずることができないことは所論の通りであるが、原判決の認定するところによれば、被告人等は共謀して自動車運轉手を殺害して自動車を強奪しようと企て、所携のバンドを自動車運轉手Aの頸部に掛けて締め付けたが、偶々該バンドが切れた爲めに殺害の目的を遂げなかつたと云うのであり、しかして右バンドが紙製擬革品であつても、右の方法を以つてすれば絶對に人を殺害することができないものではなく、殺害の結果を惹起する危險は十分あつたのであるが、偶々、右バンドが切れたために殺害の目的を遂げることができなかつたと云うに過ぎない。また、犯罪の時刻及び場所が殺人を行うに不適當であつたからと云つて、殺害の結果が發生しないと云うことができないことも自明のことである。したがつて本件殺人未遂の點は、所論のように、いわゆる不能犯にはあたらない。 二 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは偏頗や不公平のおおれのない組織と構成とをもつた裁判所による裁判を意味するのであつて、原審の事實の認定又は刑の量定を被告人から見て不當であるとしても、右憲法の條項に違反しないものであることは、既に當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)四八號二三年五月二六日判決。昭和二三年(れ)一七一號、二三年五月五日判決) 三 所論の實況見分書は原判決の證據として採用しないものであつて、從つて假にその作成手續上に違反があつたとしても、この違法は原判決に影響がないこと明白であるから上告理由とならない。
一 殺人未遂罪と不能犯 二 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」 三 證據に採用しない書類の作成手續上の違法と上告理由
刑法199條,刑法43條,憲法37條1項,刑訴法411條
判旨
実行行為を以て絶対に犯人の予見する結果を惹起することができない場合には未遂罪は成立しないが、行為の方法により結果発生の危険が十分にある場合には、偶然の事情により目的を遂げなかったとしても不能犯とはならない。
問題の所在(論点)
殺意をもって頸部を絞め付けたものの、使用したバンドが紙製であったために切断して結果が発生しなかった場合について、実行の着手が認められるか(不能犯と未遂罪の区別)。
規範
刑法43条にいう「犯罪の実行に着手し之を遂げざる」場合(未遂)とは、その行為を以て犯人の予見する結果を惹起することができる実行行為に着手し、その犯罪を遂げなかった場合を意味する。したがって、その実行行為を以ては絶対に結果を惹起することができない場合には不能犯として未遂罪は成立しないが、行為の性質上、結果発生の危険が十分にある場合には未遂罪が成立する。
重要事実
被告人らは、自動車運転手を殺害して自動車を強奪しようと共謀し、所携のバンドを運転手Aの頸部に掛けて絞め付けた。しかし、当該バンドが紙製擬革品であったため、絞めている途中でバンドが切れてしまい、殺害の目的を遂げることができなかった。弁護人は、紙製バンドを用いた殺害は不可能であり、かつ犯行時刻・場所も不適当であったとして不能犯を主張した。
あてはめ
被告人らが使用したバンドが紙製擬革品であったとしても、そのバンドを頸部に掛けて絞め付けるという方法は、絶対に人を殺害することができないものではなく、殺害の結果を惹起する危険は十分にあったといえる。本件で殺害に至らなかったのは、たまたまバンドが切れたという偶然の事情に過ぎない。また、犯行の時刻や場所が殺人を行うに不適当であったとしても、それによって直ちに結果発生の危険が否定されるものではない。したがって、本件行為は客観的に見て結果発生の具体的危険性を有する実行行為といえる。
結論
本件行為は不能犯にはあたらず、殺人未遂罪が成立する。
実務上の射程
不能犯の判断基準について、具体的危険説に近い立場から、行為の主観的意図と客観的な危険性の有無を判断した事例である。答案上は、実行の着手の有無を論じる際に、方法が不完全であっても「偶然の事情」により結果が出なかったに過ぎない(危険性が認められる)ことを論証する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)1005 / 裁判年月日: 昭和24年7月2日 / 結論: 棄却
しかし被告人の近親者に精神病者があつても被告人に精神異常の疑のないときには精神鑑定をしなくても違法ではない。
事件番号: 昭和23(れ)1680 / 裁判年月日: 昭和24年2月24日 / 結論: 棄却
被告人は巡査部長を射撃して、同人が被告人を追つかけることのできないようにしようと思つて、ことによつたら同人を射殺す結果になるかも知れないが、それもやむを得ないと考へ、ピストルを同人に向け發射し、同人が死んでしまつたのであるから、被告人が殺人罪に問われるのは當然である。