被告人は巡査部長を射撃して、同人が被告人を追つかけることのできないようにしようと思つて、ことによつたら同人を射殺す結果になるかも知れないが、それもやむを得ないと考へ、ピストルを同人に向け發射し、同人が死んでしまつたのであるから、被告人が殺人罪に問われるのは當然である。
殺人の結果に對する未必の故意と殺人罪の成立
刑法199條,刑法38條1項
判旨
殺人の実行行為に際し、必ずしも積極的に相手を殺そうという確定的な意図がなくても、自己の行為により死の結果が発生するかもしれないと意識し、かつその発生を認容していれば、殺人の故意が認められる。
問題の所在(論点)
殺人の確定的な殺意(殺そうという強い意図)がない場合であっても、死亡の結果発生の可能性を認識しつつ行為に及んだ場合に、刑法199条の殺人罪における故意(犯意)を認めることができるか。
規範
犯罪の故意が認められるためには、必ずしも結果の発生を確実なものとして意図している必要はない。行為者が、自己の行為から特定の犯罪事実が発生する可能性を認識(意識)し、かつ、そのような結果が発生してもやむを得ないとしてこれを受け入れる(認容する)心理状態があれば、いわゆる「未必の故意」として、当該罪の犯意を肯定することができる。
重要事実
被告人は、追跡してくる巡査部長に対し、同人が追跡を継続できないようにする目的でピストルを向けた。被告人は、必ずしも射殺すること自体を目的としていたわけではないが、射撃によって相手が死ぬ結果になるかもしれないことを意識しつつ、あえて発射した。その結果、弾丸が命中した巡査部長は死亡するに至った。
事件番号: 昭和25(れ)1594 / 裁判年月日: 昭和26年3月6日 / 結論: 棄却
所論検証並びに証人尋問の日時、場所の変更を検察官に通知したことの明らかな証拠が、記録に存しないことは所論のとおりである。しかし、証人尋問や検証の日時、場所を検察官に通知するについては如何なる方法によるもの差支えないものであり、その通知の事実を記録に留めることは必ずしも必要ではないのであるから、その通知の明らかな証拠が記…
あてはめ
被告人は、巡査部長の追跡を逃れるという目的のために、ピストルを人に向けて発射するという極めて危険な行為に及んでいる。この際、被告人は「ことによったら射殺する結果になるかもしれない」と、死の結果発生の可能性を明確に意識していた。さらに、そのような結果が生じることを「やむを得ない」と考えていたことは、結果発生を認容していたものと評価できる。したがって、積極的に殺害を望んでいなかったとしても、客観的な死の結果に対する未必的な認識と認容があったといえる。
結論
被告人には殺人の犯意(未必の故意)が認められ、殺人罪が成立する。
実務上の射程
故意の有無が争点となる事案において、「未必の故意」を肯定するためのリーディングケースとして活用できる。答案上では、認容説の立場から「結果発生の可能性の認識」と「認容(やむを得ないという態度)」の二要素を抽出する際の根拠となる。特に、殺意を否定する被告人の弁解に対し、危険な行為の認識と結果の認容を認定して故意を導く論理構成として有用である。
事件番号: 昭和24(れ)1091 / 裁判年月日: 昭和24年7月16日 / 結論: 棄却
上告趣意一の強盜行爲(原判決判示第一の事實)は未遂であることは原判決もそのとおりに認定しているのであるが、その現場において傷人した以上は、たとい強盜行爲は未遂であつても、刑法第二四〇條前段の強盜傷人罪は成立するのである。
事件番号: 平成15(あ)504 / 裁判年月日: 平成18年9月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が深夜、警察官の制止を振り切って走行を続け、追跡を逃れる目的で自動車を加速させ、進行方向にいた警察官の夫人に衝突させて重傷を負わせた行為について、殺人未遂罪の成立を認めた第一審判決を維持した事例(最決平成22年10月11日)。 第1 事案の概要:被告人は警察官の制止を逃れるため、執拗な追跡を…
事件番号: 昭和24(れ)2681 / 裁判年月日: 昭和26年3月27日 / 結論: 棄却
強盗共犯の一人が強盗に着手した後家人に騒がれて逃走し追跡されているうち、巡査に発見され追い付かれて逮捕されようとした際逮捕を免れるため同巡査に切りつけ死に至らしめたときは、その強盗殺人の行為につき他の共犯も責任を負うべきである。
事件番号: 昭和43(あ)2060 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑判決の正当性について、諸般の事情を慎重に考慮した上であれば、第一審の死刑判決を是認した控訴審判決に職権破棄すべき事由はない。 第1 事案の概要:被告人が重大な罪を犯し、第一審において死刑を言い渡された事案。被告人本人は事実誤認および量刑不当を主張し、弁護人も法令違反、事実誤認、量刑不当を理由に…