一 被告人の公判廷の供述が前後矛盾する場合にその一部分を採用し他の部分を排斥することは證據の取捨選擇の一場合であつて原審の專權に屬するのである。 二 刑訴應急措置法第一三條第二項の規定は犯罪の構成要件たる事實に關する事實誤認の主張を上告理由とすることができない趣旨と解すべきである。 三 被告人は昭和二二年八月二四日(當日以後勾留)司法警察官に對し、同月三〇日檢察官に對してそれぞれ本件犯行を自白しておるのみならず、第一審第二回公判廷(同年一一月五日)においても本件犯行を自白しておるのであつてこれらの自白はいづれも不當に長い拘禁後の自白と云うことはできないのである。そして被告人の原審公判廷における自白(昭和二三年三月一五日)も單に前にした自白を繰返したに過ぎないものと認められるから右自白は不當に長い拘禁の結果なされたものでないことが明らかであつて、かかる場合にはその自白は憲法第三八條第二項及び刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる不當に長い拘禁後の自白にあたらない。
一 被告人の公判廷の供述が前後矛盾する場合における事實審裁判所の採證上の取捨選擇權 二 刑訴應急措置法第一三條第二項の法意 三 憲法第三八條第二項及刑訴應急措置法第一〇條第二項にいわゆる「不當に長い拘禁後の自白」に該らぬ場合
刑訴法337條,刑訴應急措置法13條2項,刑訴應急措置法10條2項,憲法38條2項
判旨
不当に長い拘禁の後にされた自白であっても、それが拘禁前に任意になされた自白を単に繰り返したものに過ぎない場合には、憲法38条2項等にいう「不当に長い拘禁後の自白」には当たらない。また、公判廷における供述が前後矛盾する場合、その一部を採用し他を排斥することは、証拠の取捨選択として裁判所の専権に属する。
問題の所在(論点)
1. 被告人の供述が公判廷内で変遷・矛盾する場合、その一部を証拠として採用することは許されるか。 2. 長期間の拘禁後になされた自白が、拘禁前になされた任意の自白の反復に過ぎない場合、憲法38条2項等の「不当に長い拘禁後の自白」として証拠能力を否定されるか。
規範
1. 証拠の取捨選択:被告人の公判廷での供述が前後矛盾する場合、その一部分を採用し、他の部分を排斥することは、裁判所の自由な心証に基づく証拠の取捨選択(専権)の範囲内である。 2. 不当に長い拘禁後の自白:憲法38条2項及び刑訴応急措置法10条2項にいう「不当に長い拘禁後の自白」とは、不当な拘禁によって心理的圧迫を受け、その結果としてなされた自白を指す。したがって、不当に長い拘禁が継続する前に、既に捜査段階や第一審公判等において任意に自白がなされており、その後の自白が単に前の自白を継続・反復したものに過ぎない場合は、これに当たらない。
事件番号: 昭和23(れ)277 / 裁判年月日: 昭和24年7月13日 / 結論: 棄却
一 第二審判決が證據とした被告人の自白と被告人の拘禁との間には因果關係のなかつたことが明らかと認められるから、右の自白は不當に長く拘禁された後の自白に當らないものと云うべきである。(昭和二二年(れ)第二七一號、同二三年六月二三日大法廷判決參照) 二 高等裁判所が上告審としてした判決に對し、刑訴應急措置法第一七條によるい…
重要事実
被告人は公文書変造等の罪で起訴された。被告人は、逮捕・勾留から約7ヶ月が経過し、保釈申請が6回却下されるなどの状況下にあった原審(第二審)公判廷において、審理の前半で犯行を自白した。しかし、後半では「汗で滲んだ字を直そうとしたら偶々変造したように見えただけ」と主張し、犯意を否認した。弁護人は、原判決が矛盾する供述の一部のみを採用した点、及び長期間の拘禁後の自白を証拠とした点を憲法・法律違反として上告した。
あてはめ
1. 証拠の取捨選択について:原審が被告人の矛盾する供述のうち、前半の自白部分を他の証拠と総合して事実認定に用いたことは、証拠の取捨選択という原審の専権事項であり、違法はない。 2. 自白の証拠能力について:被告人は、逮捕直後の司法警察官・検察官による取調べ、及び第一審の公判廷においても本件を自白していた。これらはいずれも「不当に長い拘禁後」とはいえない時期になされたものである。原審での自白はこれらを単に繰り返したに過ぎないため、拘禁によって強制されたものとは認められず、憲法上の禁止規定には抵触しない。
結論
上告棄却。原審の証拠選択及び自白の証拠能力に関する判断に違法はない。
実務上の射程
自白の任意性・証拠能力に関する基本的判例である。特に「不当に長い拘禁後の自白」の該当性を判断する際、先行する任意の自白との同一性を考慮する枠組みとして重要。答案上は、憲法38条2項の「不当に長い拘禁」を論じる際、自白の誘発原因が拘禁にあるか否かの因果関係を検討する際の考慮要素として用いる。
事件番号: 昭和56(あ)928 / 裁判年月日: 昭和56年9月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白が任意性を欠くものではなく、かつ被告人に対する勾留が憲法38条2項にいう「不当に長い拘禁」にあたらない場合には、当該自白の証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人が刑事被告事件において自白を行ったが、その自白の任意性および勾留期間の正当性が争点となった。弁護人は、被告人に対す…
事件番号: 昭和23(れ)446 / 裁判年月日: 昭和23年7月29日 / 結論: 棄却
原判決には、憲法によつて擁護される基本的人權を侵害した違法があると主張しても、その主張内容が實質において憲法違反を理由とするものでない以上、再上告の適法な理由とならない。補充意見裁判官齋藤悠輔