一 第二審判決が證據とした被告人の自白と被告人の拘禁との間には因果關係のなかつたことが明らかと認められるから、右の自白は不當に長く拘禁された後の自白に當らないものと云うべきである。(昭和二二年(れ)第二七一號、同二三年六月二三日大法廷判決參照) 二 高等裁判所が上告審としてした判決に對し、刑訴應急措置法第一七條によるいわゆる再上告の申立があつた場合に、最高裁判所が右事件を受理して後、訴訟記録の餘部が滅失しても、その事件が最高裁判所に係屬するに至るまでのすべての訴訟要件は、具備しているものと認むべきである。 三 日本國憲法はその補則において別段の定めを設けていないのであるから、憲法に掲げられた所論の條規は、憲法施行の日からその効力を生じ、その當時裁判所に繋屬しているすべての訴訟事件に適用せらるべきことは當然である。それゆえ、日本國憲法の施行前に終結した辯論に基いて憲法施行後に言渡された第二審判決に對して原裁判所に上告された本件について、原上告裁判所が憲法の所論條規の適用がないものと判斷したことは失當である。 四 昭和二二年法律第一二四號刑法の一部を改正する法律によつて、刑の執行猶豫に關する條件が變更されたことが別の變更には當らず又舊刑訴法第四三四條第二項を準用すべき場合でもないことは當裁判所の判例とするところである。
一 拘禁と因果關係のない自白 二 刑訴應急措置法第一七條による再上告申立事件の最高裁判所受理後における記録の滅失と訴訟要件の存否 三 憲法施行前に結審となり施行後に言渡された判決に對する上告について憲法の適用がないと判斷したことの正否 四 刑の執行猶豫に關する條件の變更と別の變更並びに舊刑訴法第四三四條第二項との關係
憲法37条2項,憲法37条1項,刑訴応急措置法10条2項,刑訴応急措置法17条,刑訴応急措置法附則全部,旧刑訴法409条,旧刑訴法434条2項,昭和22年法律124号刑法の一部を改正する法律,刑法6条
判旨
不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項)に当たるか否かは、拘禁期間の長さだけでなく、事件の複雑性や自白に至る経緯等の諸事情を総合して、拘禁と自白との間に因果関係が認められるかによって判断すべきである。また、公判廷での自白は、反対の確証がない限り任意のものと推認される。
問題の所在(論点)
憲法38条2項にいう「不当に長い拘禁後の自白」の意義、および裁判所による証人申請の却下が憲法37条(公平な裁判所・証人喚問権)に違反するか。
規範
1. 憲法38条2項の「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」とは、単に拘禁期間が長期にわたることを意味するのではなく、その拘禁と自白との間に因果関係がある場合を指す。2. 公判廷における供述は、反対の確証がない限り、強制・拷問・脅迫等によるものではない任意のものと推認するのが相当である。3. 憲法37条2項の証人喚問権は、裁判所が必要性を認めて訊問を許可した証人について規定したものであり、証人申請の採否は原則として裁判所の合理的な裁量に委ねられる。
重要事実
被告人Aは、警察署に引致されてから保釈されるまで約6ヶ月22日間拘禁されていた。その間、引致から約3ヶ月後に検察官に対し自白し、約5ヶ月後に第一審公判廷で自白した。本件は事実関係が複雑な事案であり、第二審では10回にわたる公判が開かれていた。被告人側は、この自白が不当に長い拘禁によるものであり、また証人申請の却下が公平な裁判を受ける権利の侵害であると主張して再上告した。なお、本件の訴訟記録は盗難により滅失していたが、弁護人による謄写や判決書等の写しが現存していた。
あてはめ
1. 被告人Aの拘禁期間(約6ヶ月)は短くないが、本件は事案が複雑であり、慎重な審理を要した。被告人は警察、検察、裁判所の各段階を通じて一貫して自白しており、拘禁期間の経過や回数に照らしても、拘禁と自白との間に因果関係があったとは認められない。したがって、不当に長い拘禁後の自白には当たらない。2. また、第二審が証拠とした供述の多くは公判廷での供述であり、任意性が推認される上、他の補強証拠も存在するため、自白のみによる処罰(同条3項)にも抵触しない。3. 証人申請の却下については、裁判所が必要性がないと判断したものであり、裁判官の恣意によるものとは認められないため、公平な裁判所の原則に反しない。
結論
被告人の自白は憲法38条2項・3項に違反せず、証人申請の却下も憲法37条に違反しない。したがって、原判決に憲法違反はなく、再上告は棄却される。
実務上の射程
自白の任意性(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に関するリーディングケース。単なる拘禁期間の長短という形式的基準ではなく、事案の性質に応じた因果関係の有無という実質的基準を示しており、実務上のあてはめのモデルとなる。また、裁判所の証拠採否の裁量権と被告人の防禦権の限界を画する基準としても活用できる。
事件番号: 昭和40(あ)2910 / 裁判年月日: 昭和42年2月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長い抑留・拘禁後の自白は、憲法38条2項により証拠能力が否定されるが、その該非は個別具体的事案に照らして判断される。本件では抑留・拘禁期間が不当に長いとは認められず、自白の任意性を疑うべき証跡もないため、証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人が自白を行うに至った過程において、一定…
事件番号: 昭和23(れ)534 / 裁判年月日: 昭和23年9月18日 / 結論: 棄却
一 被告人の公判廷の供述が前後矛盾する場合にその一部分を採用し他の部分を排斥することは證據の取捨選擇の一場合であつて原審の專權に屬するのである。 二 刑訴應急措置法第一三條第二項の規定は犯罪の構成要件たる事實に關する事實誤認の主張を上告理由とすることができない趣旨と解すべきである。 三 被告人は昭和二二年八月二四日(當…