右期日において被告人は同辯護人の辯論を抛棄する旨の陳述を爲したことは前記の通りであるが、元來辯護人は刑事訴訟法上被告人に屬する權利を行使する外、その獨自の立場において被告人の利益を擁護する固有の權利をも有するものであるから、前敍のような辯護人を召喚しないで審理した手續上の瑕疵は、單なる被告人の辯論抛棄の陳述によつて治癒せられるものと解するを得ない。畢竟原審は不法に同辯護人の辯護權の行使を制限したことに歸着するから原判決はこの點において全部破毀を免かれない。
辯護人を召喚しないで審理した違法とその辯護人の辯論を抛棄する旨の被告人の陳述
刑訴法46條,刑訴法320條,刑訴法349條,刑訴法410條11號,刑訴應急措置法11條
判旨
弁護人が独自の立場において被告人の利益を擁護する固有の権利を有することに鑑み、弁護人を召喚せずに行われた審理手続の瑕疵は、被告人による弁論放棄の陳述のみでは治癒されない。
問題の所在(論点)
弁護人を召喚せずに行われた審理手続の適否、および被告人による弁論放棄の陳述が当該手続上の瑕疵を治癒するか。
規範
弁護人は、刑事訴訟法上、被告人に属する権利を代行するだけでなく、その独自の立場において被告人の利益を擁護する「固有の権利」を有する。したがって、弁護人を正当に召喚せず、その弁護権の行使を不当に制限した手続上の瑕疵は、被告人本人の意思表示のみによって当然に治癒されるものではない。
重要事実
原審の第2回公判期日において、公判手続の更新が行われ審理が進められたが、弁護人の一人が不出頭であった。記録上、当該弁護人に対して期日の召喚状が送達された形跡や、出頭の意思を確認した書面が存在しなかった。原審は、被告人が当該弁護人の弁論を放棄する旨を陳述したことを受け、そのまま弁論を終結し判決を言い渡した。
あてはめ
本件では、原審が弁護人に対し適法な召喚手続を執った形跡が認められない。弁護人は被告人の代理人にとどまらず、独立した立場から被告人を保護する役割を担う以上、弁護人の不在は適正な防御機会の喪失を意味する。被告人が最終陳述直前に「弁護人の弁論を放棄する」と述べたとしても、それは弁護人が固有の権利として有する弁護権の不当な制限を正当化するものではなく、手続の違法を解消させる効果はないといえる。
結論
弁護人を召喚せずに審理を行い、弁論を終結させた原審の手続は、不当に弁護権の行使を制限した違法がある。したがって、被告人の弁論放棄があったとしても、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
弁護権の独立性を強調する重要判例である。答案上は、被告人自身の権利放棄が認められる場面であっても、弁護人の固有権としての側面が残る場合には、適正手続(31条)の観点から手続の瑕疵が治癒されないことを論証する際に活用できる。旧法下の判決であるが、現行法における弁護権の意義を解釈する上でも維持されている法理である。
事件番号: 昭和26(れ)1140 / 裁判年月日: 昭和26年9月14日 / 結論: 棄却
所論田沼弁護人は適法な呼出を受けながら故なく原審第二回公判期日に出頭しなかつたことは記録上明らかであつて(同弁護人提出の延期願は、他の被告人に関するものであつて、被告人Aの公判に関するものではない)かかる場合、右公判において被告人が同弁護人の弁論を抛棄した以上、裁判所は同弁護人の弁論を聞かないで結審しても、これを以て所…
事件番号: 昭和22(れ)331 / 裁判年月日: 昭和23年4月13日 / 結論: 棄却
一 該公判において爲された審理の範圍は上告理由書に書いてある丈けのこと(國籍登録手續をしたかどうか、日本の裁判權に服することに異議はないか、を訊ねたこと)で、犯罪の實體についての審理は何も爲されて居ない。而して第二回の公判においては辯護人立曾の上被告人の人違でないかどうかの點を初めとし、犯罪の實體に付き完全な手續を以て…