辯護人なくして公判を開廷することが出來ない事件において、公判調書の冒頭に、辯護人が出頭しない旨の記載があり、その最終の部分即ち證據調終了の直前及び檢察官の求刑直後に辯護人が陳述及び辯論をした旨の記載があり(その辯護人の氏名の記載がない)、その辯護人は被告人のために選任された唯一の辯護人である場合には、法律により辯護人を要する事件につき辯護人が出頭することなくして審理をした違法があると言わなければならない。
刑訴法第四一〇條第一〇號に該當する一場合
刑訴法334條,刑訴法410條10號
判旨
必要的弁護事件において、公判調書に弁護人が出頭しない旨の記載があるにもかかわらず、その後の弁論等の記載のみをもって弁護人が期日冒頭から出頭していたと解することはできず、弁護人の欠席下での審理は違法である。
問題の所在(論点)
必要的弁護事件において、公判調書の冒頭で弁護人が「出頭しない」と記録されている一方で、末尾で弁論の事実が記録されている場合、弁護人が出頭したものとして審理の有効性を認めることができるか。
規範
必要的弁護事件(刑事訴訟法289条1項)において、弁護人の出頭は公判開廷の要件である。公判調書に出頭の有無に関する矛盾する記載がある場合、出頭していない旨の明確な記載がある以上、特段の事情がない限り、弁護人が欠席したまま審理が行われたものと判断される。
重要事実
強盗傷人・住居侵入被告事件において、原審(控訴審)の第2回公判調書の冒頭に「弁護人齋藤忠雄は出頭しない」と記載されていた。一方で、同調書の終盤(証拠調べ終了直前および検察官の求刑直後)には、弁護人が陳述および弁論を行った旨の記載があった。記録上、当該弁護士は唯一の選任弁護人であった。
事件番号: 昭和22(れ)331 / 裁判年月日: 昭和23年4月13日 / 結論: 棄却
一 該公判において爲された審理の範圍は上告理由書に書いてある丈けのこと(國籍登録手續をしたかどうか、日本の裁判權に服することに異議はないか、を訊ねたこと)で、犯罪の實體についての審理は何も爲されて居ない。而して第二回の公判においては辯護人立曾の上被告人の人違でないかどうかの點を初めとし、犯罪の實體に付き完全な手續を以て…
あてはめ
本件は強盗傷人事件であり、必要的弁護事件に該当するため、弁護人の出頭なくして開廷することはできない。公判調書の冒頭に「出頭しない」旨の明示的な記載がある以上、その後に弁論の記載があるからといって、冒頭の記載が明白な誤記であると即断することはできない。他に誤記を裏付ける資料がない以上、原審は弁護人が出頭しないまま審理を進めたものと評価せざるを得ない。
結論
弁護人を要する事件において弁護人が出頭せずに審理が行われたことは法律上の違法(刑事訴訟法379条等参照)にあたるため、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
本判決は、刑事訴訟法における必要的弁護制度の厳格な運用と、公判調書の記載の証明力(同法48条、52条参照)を重視する姿勢を示すものである。答案上は、審理手続の適法性が問われる場面において、手続的保障の重要性を根拠づける判例として引用できる。
事件番号: 昭和24(れ)1093 / 裁判年月日: 昭和25年9月5日 / 結論: 破棄差戻
原審公判調書によれば、各被告人は最終陳述の後にA辯護人の辯論を抛棄する旨述べているけれども、當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第四六號同年四月六日第三小法廷判決)に示されている通り、辯護人は刑訴法上被告人に屬する權利を行使する外、その獨自の立場において被告人を擁護する固有の權利をも有するものであるから、辯護人を召喚せずそ…
事件番号: 昭和23(れ)46 / 裁判年月日: 昭和23年4月6日 / 結論: 破棄差戻
右期日において被告人は同辯護人の辯論を抛棄する旨の陳述を爲したことは前記の通りであるが、元來辯護人は刑事訴訟法上被告人に屬する權利を行使する外、その獨自の立場において被告人の利益を擁護する固有の權利をも有するものであるから、前敍のような辯護人を召喚しないで審理した手續上の瑕疵は、單なる被告人の辯論抛棄の陳述によつて治癒…
事件番号: 昭和24(れ)590 / 裁判年月日: 昭和24年9月17日 / 結論: 破棄差戻
原審第一回公判調書によれば昭和二三年一二月一〇日に開かれた右公判には辯護人佐藤孝文が立會つた旨の記載がなされている。しかしながら、同辯護人は右公判の前日たる同月九日辯護人を辭任したことは記録上明らかであり同人が更に辯護人に選任されたことは本件においてみとめられない。しかして、本件については原審において別に辯護士林連が同…