原審第一回公判調書によれば昭和二三年一二月一〇日に開かれた右公判には辯護人佐藤孝文が立會つた旨の記載がなされている。しかしながら、同辯護人は右公判の前日たる同月九日辯護人を辭任したことは記録上明らかであり同人が更に辯護人に選任されたことは本件においてみとめられない。しかして、本件については原審において別に辯護士林連が同月七日に辯護人に選任されているのであるが、同辯護人に對しては、右公判期日の告知をした形跡もなく、同辯護人が右公判に立會つたことは公判調書にその記載がないのみならず、他にこれを認めるべき何らの證跡もない。しからば、本件は舊刑訴法第三三四條により辯護人なくしては公判を開廷することができない事件であるにかかわらず、原審は、同條に違反し辯護人なくして公判を開廷したものであつて、同法第四一〇條第一〇號に該當する場合であるから、本件上告は理由あり、原判決は破毀を兔れないものといわなければならない。
強制辯護の事件において辯護人を召喚せず辯護人なくして公判を開いた判決の違法
舊刑訴法334條,舊刑訴法410條10號
判旨
必要的弁護事件において、辞任した弁護人または選任事由のない弁護士が立ち会い、正当に選任された弁護人が出席せず期日の告知も受けていない状態で開かれた公判手続は、違法であり破棄事由となる。
問題の所在(論点)
弁護人が辞任済みであるか、あるいは有効に選任された弁護士が立ち会っていない状況で、必要的弁護事件の公判を開廷することの適法性。
規範
必要的弁護事件(旧刑訴法334条、現行刑訴法289条1項)において、有効な選任関係にある弁護人が公判に立ち会うことは、適法な開廷のための不可欠な要件である。弁護人が欠けた状態で開廷された公判手続は、重大な訴訟手続の法令違反(旧刑訴法410条1号、現行刑訴法379条・411条等)を構成する。
重要事実
必要的弁護事件の控訴審において、第一回公判期日に弁護人Aが立ち会った旨の調書記載があった。しかし、Aは前日に弁護人を辞任しており、再選任の事実はなかった。一方で、別に選任されていた弁護人Bに対しては期日の告知がなされた形跡がなく、Bは公判に立ち会っていなかった。
あてはめ
本件では、公判に立ち会ったとされる弁護人Aは、期日前に既に辞任しており、有効な弁護権限を有していなかった。他方、正当に選任されていた弁護人Bについては、期日告知の手続が漏れており、実際に公判へ出席した証跡も存在しない。したがって、実質的に弁護人が不在のまま開廷されたものと評価せざるを得ない。これは、弁護人なくしては開廷できないとする必要的弁護の規定に真っ向から抵触するものである。
結論
本件公判手続は法律に違反して開廷されたものであり、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
必要的弁護事件における「弁護人の立会い」が形式的なものではなく、有効な選任関係に基づかなければならないことを示した射程の長い判例である。答案上は、弁護人の欠けた公判手続の効力を争う際、手続的保障の重要性を根拠付ける判例として引用できる。
事件番号: 昭和22(れ)331 / 裁判年月日: 昭和23年4月13日 / 結論: 棄却
一 該公判において爲された審理の範圍は上告理由書に書いてある丈けのこと(國籍登録手續をしたかどうか、日本の裁判權に服することに異議はないか、を訊ねたこと)で、犯罪の實體についての審理は何も爲されて居ない。而して第二回の公判においては辯護人立曾の上被告人の人違でないかどうかの點を初めとし、犯罪の實體に付き完全な手續を以て…
事件番号: 昭和26(れ)1140 / 裁判年月日: 昭和26年9月14日 / 結論: 棄却
所論田沼弁護人は適法な呼出を受けながら故なく原審第二回公判期日に出頭しなかつたことは記録上明らかであつて(同弁護人提出の延期願は、他の被告人に関するものであつて、被告人Aの公判に関するものではない)かかる場合、右公判において被告人が同弁護人の弁論を抛棄した以上、裁判所は同弁護人の弁論を聞かないで結審しても、これを以て所…