一 該公判において爲された審理の範圍は上告理由書に書いてある丈けのこと(國籍登録手續をしたかどうか、日本の裁判權に服することに異議はないか、を訊ねたこと)で、犯罪の實體についての審理は何も爲されて居ない。而して第二回の公判においては辯護人立曾の上被告人の人違でないかどうかの點を初めとし、犯罪の實體に付き完全な手續を以て缺陷のない審理證據調が爲され此第二回公判の審理に基いて判決は爲されたので第一回の公判は全然無意味無用のものだつたことがわかる。かかる無用な手續において辯護人が立曾わなくてもそれによつて被告人の利益が害せられる惧は少しもないから之れを以て原判決を違法のものとすることは出來ない。 二 論旨においては第一回の公判で被告人が日本の裁判權に服することを承諾した點について重大な意義がある様にいつて居るけれどもそれは誤である。被告人が右の様な陳述をしてもそれは法律上何の効力も無いもので、それによつて初めて日本が被告人に對する裁判權を取得するものでもなければ又被告人もそれによつて何等の拘束を受けるものでもない。本件の様な事件においては外國人であることの證明がない限り日本の裁判所は裁判を爲し得るものであり又被告人は右の様な陳述をした後でも何時でも國籍の登録を受けることによつて當然日本の裁判權を失はしめることが出るものだからである。
一 第二回公判の審理にもとずく判決と第一回公判手續の瑕疵 二 外國人登録令による登録手續と日本の刑事裁判權
刑訴法334條,刑法1條,昭和22年勅令207號外國人登録令2條
判旨
必要弁護事件であっても、犯罪の実体に関わらない形式的な手続のみが行われた公判期日に弁護人が立ち会わなかったことは、その後の適法な公判において改めて十分な審理が尽くされている限り、判決に影響を及ぼす違法とはならない。
問題の所在(論点)
必要弁護事件の公判期日に弁護人が欠席したまま行われた形式的審理が、判決に影響を及ぼす法令違反(旧刑訴法410条18号、現刑訴法379条等参照)に該当するか。
規範
必要弁護事件(旧刑訴法334条1項)において弁護人の立会を必要とする趣旨は、被告人の利益擁護を全うする点にある。したがって、弁護人が立ち会わない公判期日において行われた審理が、犯罪の実体に関わらず被告人の利益を害するおそれのない形式的な事項にとどまり、かつ、その後の適法な公判で実体審理が改めて尽くされた場合には、手続上の欠陥があったとしても直ちに判決の破棄事由にはならない。
重要事実
被告人らの強盗事件等(必要弁護事件)の控訴審において、第1回公判期日に弁護人が出頭しないまま開廷された。同期日では、人定質問のほか、被告人の国籍取得の有無や日本裁判権への異議の有無を確認し、調書に記載するにとどまった。その後、第2回公判期日では弁護人立会いのもと、人違えの確認や犯罪の実体に関する証拠調べが改めて完全に行われ、その審理に基づいて判決が言い渡された。被告人側は、第1回公判に弁護人が欠席したこと及び15日以上の空転による弁論更新が行われなかったことの違法を主張して上告した。
あてはめ
第1回公判で行われた審理範囲は、人定事項や裁判権に関する形式的な確認に限定されており、犯罪の実体に関する取調べは一切行われていない。また、被告人の裁判権に関する供述は法律上の拘束力を持つものではなく、これによって被告人の利益が害されたとは認められない。さらに、第2回公判において弁護人立会いの上で実体審理が改めて「完全な手続」で行われており、第1回公判は結果として無用な手続となっている。このように、実質的な防御権の侵害がなく、事後の適法な審理で補完されている以上、被告人の利益擁護という法の趣旨は没却されていない。弁論の更新についても、実体審理を最初からやり直している以上、実質的に尽くされているといえる。
結論
本件手続に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
必要弁護を欠いた手続の瑕疵が、その後の適法な公判における「やり直し」によって治癒されることを認めた事例として位置づけられる。実務上は、犯罪事実の認定に直接関わる「実体審理」の有無が判断の分かれ目となる。ただし、現代の適正手続の観点からは、形式的事項であっても弁護人の不在は厳格に回避すべきであり、あくまで事後的に実質的な不利益がなかったと評価できる極めて限定的な場面でのみ適用されるべき射程である。
事件番号: 昭和26(れ)1140 / 裁判年月日: 昭和26年9月14日 / 結論: 棄却
所論田沼弁護人は適法な呼出を受けながら故なく原審第二回公判期日に出頭しなかつたことは記録上明らかであつて(同弁護人提出の延期願は、他の被告人に関するものであつて、被告人Aの公判に関するものではない)かかる場合、右公判において被告人が同弁護人の弁論を抛棄した以上、裁判所は同弁護人の弁論を聞かないで結審しても、これを以て所…