原審公判調書によれば、各被告人は最終陳述の後にA辯護人の辯論を抛棄する旨述べているけれども、當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第四六號同年四月六日第三小法廷判決)に示されている通り、辯護人は刑訴法上被告人に屬する權利を行使する外、その獨自の立場において被告人を擁護する固有の權利をも有するものであるから、辯護人を召喚せずその出頭なくして審理した手續上の瑕疵は、單なる被告人の辯論抛棄の陳述によつて治癒せられるものと解することはできない。それ故に原判決には辯護權の行使を不法に制限した違法があるとする論旨は理由があり、原判決は全部破棄を免かれない。
辯護人を召喚しないで審理し辯論を終結したことと辯護權の不法制限
舊刑訴法320條,舊刑訴法410條11號
判旨
弁護人が独自の立場において有する固有の権利に基づき、裁判所が弁護人を召喚せずその出頭なくして審理した手続上の瑕疵は、被告人の弁論放棄の陳述によって治癒されない。
問題の所在(論点)
裁判所が弁護人を召喚せず、その出頭なくして審理・弁論終結を行った場合、その手続上の違法は被告人本人の「弁護人の弁論を放棄する」旨の意思表示によって治癒されるか。
規範
弁護人は刑事訴訟法上、被告人に属する権利を代行するだけでなく、独自の立場において被告人を擁護する固有の権利を有する。したがって、裁判所が弁護人を適法に召喚せず、その出頭がないまま審理・弁論終結を行った手続上の瑕疵は、被告人本人が弁論を放棄する旨を陳述したとしても、これによって治癒されるものではない。
重要事実
被告人三名の控訴審において、弁護人A及び田辺が選任されていた。昭和24年3月3日の公判期日において、田辺弁護人は出頭したが、A弁護人は出頭しなかった。記録上、裁判所がA弁護人に対し召喚状を送達した形跡や、同弁護人から期日に出頭する旨の書面を受領した形跡は認められなかった。原審は、A弁護人の不在下で審理を行い、各被告人が最終陳述において「A弁護人の弁論を放棄する」旨を述べたことを受けて、そのまま弁論を終結し判決を言い渡した。
事件番号: 昭和23(れ)46 / 裁判年月日: 昭和23年4月6日 / 結論: 破棄差戻
右期日において被告人は同辯護人の辯論を抛棄する旨の陳述を爲したことは前記の通りであるが、元來辯護人は刑事訴訟法上被告人に屬する權利を行使する外、その獨自の立場において被告人の利益を擁護する固有の權利をも有するものであるから、前敍のような辯護人を召喚しないで審理した手續上の瑕疵は、單なる被告人の辯論抛棄の陳述によつて治癒…
あてはめ
本件では、A弁護人に対する公判期日の召喚手続が行われておらず、弁護権の行使を不法に制限した違法がある。弁護人は被告人の権利を代行するのみならず、被告人を擁護すべき固有の権利を有する地位にある。そうである以上、被告人が事後的に「弁論を放棄する」と陳述したとしても、裁判所が適法な召喚を怠ったという重大な手続上の瑕疵を、被告人の意思のみによって消滅させることはできない。したがって、本件手続には弁護権制限の違法が依然として残存する。
結論
被告人の弁論放棄によって手続上の瑕疵は治癒されず、弁護権を制限した違法があるため、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
弁護人の固有権と被告人の意思表示の関係を論じる際に用いる。特に、必要的弁護事件における弁護人不在の審理の可否や、弁護権の保障が単に被告人の私益に留まらず、刑事訴訟の適正手続(固有の権利)として位置づけられることを強調する場合に有効である。
事件番号: 昭和26(れ)1140 / 裁判年月日: 昭和26年9月14日 / 結論: 棄却
所論田沼弁護人は適法な呼出を受けながら故なく原審第二回公判期日に出頭しなかつたことは記録上明らかであつて(同弁護人提出の延期願は、他の被告人に関するものであつて、被告人Aの公判に関するものではない)かかる場合、右公判において被告人が同弁護人の弁論を抛棄した以上、裁判所は同弁護人の弁論を聞かないで結審しても、これを以て所…
事件番号: 昭和22(れ)331 / 裁判年月日: 昭和23年4月13日 / 結論: 棄却
一 該公判において爲された審理の範圍は上告理由書に書いてある丈けのこと(國籍登録手續をしたかどうか、日本の裁判權に服することに異議はないか、を訊ねたこと)で、犯罪の實體についての審理は何も爲されて居ない。而して第二回の公判においては辯護人立曾の上被告人の人違でないかどうかの點を初めとし、犯罪の實體に付き完全な手續を以て…