一 刑事訴訟法第三六〇條第二項に法律上犯罪の成立を阻却すべき原由又は刑の加重減免の原由たる事實というのは、かかる事實があれば法律上當然犯罪の成立を阻却し又は當然刑の加重減免をしなければならない事柄を指すのであつて、かかる事實があるという主張がある場合には、判決においてこれに對する判斷を示さなければならないのに反し、刑法第六六條により犯罪の情状憫諒すべきものとして酌量減輕をなす場合は、裁判所の自由なる判斷によつてなされる量刑の一過程にすぎないものであつて、酌量減輕をなすに至つた判斷理由を判決に示す必要なきものである。 二 原判決において證據として舉示したAに對する司法警察官の聽取書によれば、Aは本件強盜について被告人と共謀したことを明言しているばかりでなく、被告人とAとは共に覆面して被害者方の屋内に侵入し、Aが被害者の前に立つて被害者を脅迫しているのに對し、被告人は其後ろに立つて居たのであり、Aが金品を強奪している間に被告人は六疊の間に箪笥の中から衣類を奪取したというのであるから、これ等の事實を綜合して判斷しただけでもAと被告人との間に強盜の意思連絡のあつたことを窺い知ることができるのであるから、舉示の證據によつて被告人はAと共謀して本件強盜事犯を實行したものと認定したことについて經驗則違背又は採證上の違背は認められない。被告人は原審公判において共謀事實を否認しているのであるが、原審においてはこれを措信しなかつたものであつて原判決理由に何等の齟齬はない。
一 酌量減輕の理由と刑訴第三六〇條第二項 二 強盜共謀の認定と實驗則
刑法66條,刑法236條1項,刑法60條,刑訴法360條2項
判旨
刑法66条に基づく酌量減軽は裁判所の裁量による量刑の一過程にすぎず、刑事訴訟法335条2項(旧360条2項)にいう「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由又は刑の加重減免の原由たる事実」には当たらない。また、共謀の事実は、実行行為の分担態様や犯行現場での状況等の客観的事実から総合的に推認することが可能である。
問題の所在(論点)
1. 酌量減軽(刑法66条)の主張に対し、判決でその当否に関する判断を示す必要があるか(刑訴法335条2項の該当性)。2. 被告人が共謀を否認している場合に、現場での役割分担等の状況証拠から共謀を認定できるか。
規範
刑事訴訟法335条2項(旧360条2項)の「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由又は刑の加重減免の原由たる事実」とは、その事実の存在により法律上当然に犯罪不成立や刑の加重減免をもたらす事柄を指す。これに対し、酌量減軽(刑法66条)は裁判所の自由な判断に委ねられた量刑上の措置であり、判決にその理由を示す必要はない。また、共犯の共謀は、共犯者間の意思連絡が認められれば足り、直接証拠がなくとも客観的な実行状況から推認できる。
重要事実
被告人は、共犯者Aと共に覆面をして被害者宅に侵入した。現場では、Aが被害者を脅迫している間に被告人がその背後に立ち、Aが金品を強奪する一方で、被告人は別室の箪笥から衣類を奪取するという役割分担の下で強盗を実行した。被告人は公判において共謀事実を否認し、また酌量減軽の理由が示されていないことが判決の不備であると主張して上告した。
あてはめ
1. 酌量減軽は裁判所の自由なる判断による量刑過程であり、法律上当然に刑を減軽すべき事由ではないため、刑訴法335条2項の「刑の加重減免の原由」には該当せず、理由付記は不要である。2. 本件では、被告人とAが共に覆面で侵入し、一方が脅迫、他方がその背後で見守りつつ物品を物色・窃取するという密接な連携の下に犯行が行われている。これらの事実は強盗の意思連絡があったことを強く推認させるものであり、共謀を認定した原判決に経験則違背等の過誤はない。
結論
1. 酌量減軽の理由を示す必要はない。2. 被告人の否認にかかわらず、実行行為の状況から共謀を認定した原判断は正当である。
実務上の射程
刑事訴訟法335条2項の「法律上の主張」の範囲を確定する際に重要となる。正当防衛や中止犯等と異なり、酌量減軽の主張は同項の対象外である。また、共謀の認定手法として、現場での具体的な役割分担(見張り、物色、脅迫の分担)から意思連絡を推認する手法は実務上確立された手法である。
事件番号: 昭和25(れ)120 / 裁判年月日: 昭和27年12月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の事実を判示する際、共謀の成立を認めるに足りる事実が摘示されていれば足り、共謀の具体的日時、場所、内容等を詳細に判示する必要はない。 第1 事案の概要:被告人は、他人と共謀して強盗を行ったとして起訴され、有罪判決を受けた。弁護人は、原判決の判示において共謀の具体的な内容が示されていない…
事件番号: 昭和24(れ)28 / 裁判年月日: 昭和24年5月31日 / 結論: 棄却
論旨は、原審は本件の併合罪につき法定の加重をするに當り、窃盜罪と強盜未遂罪との刑の輕重の比較において窃盜罪を重しとしてその刑に法定の加重をしているが、それは違法であるというのである。しかし、同時に刑を加重減輕すべきときには、併合罪の加重は、先だつて法律上の減輕をしなければならないことは、刑法第七二條の規定するところであ…
事件番号: 昭和22(れ)136 / 裁判年月日: 昭和22年12月16日 / 結論: 棄却
犯罪事實の一部について證據として本人の自白があるだけで他の證據がない場合でも、その自白と他の證據を綜合して、犯罪事實全體を認定することは、刑訴應急措置法第一〇條第三項の規定に違反するものではない。