一 原判決舉示の證據によれば、判示強盜未遂の事實を肯認することができる。論旨は、「Aの妻Bに對してつくりごとを云つて金錢を得ようとした」判示事實を捉えて、この行爲は詐欺で刑法第二四六條に該當するから、強盜罪の外に詐欺罪の規定を適用すべき旨を主張するのであるが、本件においては詐欺罪乃至詐欺事實は起訴されてない。そして、詐欺罪と強盜罪とは起訴事實の同一性を缺くものであるから、本件強盜罪についての公訴提起の効力は詐欺罪には及ばない。從つて、論旨の「つくりごとを云つて金錢を得ようとした」判示事實の記載は單に本件強盜罪の犯行經過の一事情として添加されているに過ぎないものと解すべきである。それ故、原判決が詐欺未遂の適條を掲げていないのは、正當である。 二 論旨は「一見拳銃の様に見える前記ライターを突き付け金を貸せと脅迫し」た判示事實を捉えてこの行爲は脅迫で刑法第二二二條に該當するから強盜罪の外に脅迫罪の規定を適用すべき旨を主張するのであるが右脅迫は判示暴行と共に本件強盜罪の一手段として説示されたに過ぎないことは判文上明らかである。すなわち脅迫は強盜罪の中に吸收せられておるものと見るべきであつて強盜罪の外に脅迫罪が獨立して成立するものと解することは出來ない。從つて本件においては何れの點から見るも論旨の言うごとく刑法第五四條を適用すべき餘地は存在しないのである。
一 強盜の動機として判示した詐欺の事實と起訴事實の同一性 二 強盜の手段たる脅迫行爲と脅迫罪の成否
刑法236條,刑法246條,刑法222條,刑法54條,刑訴法360條1項
判旨
強盗の手段として行われた脅迫は強盗罪に吸収され、強盗罪とは別に独立して脅迫罪が成立することはない。また、強盗罪の公訴事実に付随して記載された虚偽の申述等の事実は犯行経過の一事情に過ぎず、詐欺罪と強盗罪は公訴事実の同一性を欠くため、強盗罪の起訴の効力は詐欺罪には及ばない。
問題の所在(論点)
1. 強盗の手段として行われた脅迫行為について、強盗罪とは別に脅迫罪が独立して成立するか。2. 強盗の犯行経過として記載された詐欺的行為について、強盗罪の起訴の効力が及ぶか(詐欺罪を独立して認定すべきか)。
規範
1. 強盗の手段として行われる脅迫は、強盗罪の構成要件の一部をなすものであり、強盗罪に吸収される。したがって、強盗罪の外に独立して脅迫罪が成立し、観念的競合(刑法54条1項前段)となる余地はない。2. 詐欺罪と強盗罪は、その構成要件の性質上、公訴事実の同一性を欠く。そのため、強盗罪として公訴が提起されている場合、その効力は詐欺罪には及ばない。
重要事実
被告人は、被害者の妻に対し「つくりごと(虚偽の事実)」を述べて金銭を得ようとした後、拳銃に似たライターを突き付けて「金を貸せ」と脅迫し、強盗未遂罪で起訴された。弁護人は、虚偽の申述は詐欺罪に、ライターによる脅迫は脅迫罪にそれぞれ該当し、強盗罪との間で観念的競合として処断すべきであると主張して上告した。
あてはめ
1. 本件における「ライターを突き付けた脅迫」は、判示の暴行と共に強盗罪の一手段として行われたものである。この場合、脅迫は強盗罪の構成要件の一部として評価されるべきであり、独立した脅迫罪の成立を認めることはできない。2. 被害者の妻に対する虚偽の申述は、あくまで本件強盗罪の犯行経過における一事情として記載されたに過ぎない。強盗罪と詐欺罪は公訴事実の同一性を欠くため、検察官により詐欺罪の事実が起訴されていない以上、裁判所が詐欺罪として処断しないことは正当である。
結論
強盗の手段たる脅迫は強盗罪に吸収され独立した罪を構成しない。また、起訴されていない詐欺事実に起訴の効力は及ばず、観念的競合の適用を認めなかった原判決は正当である。
実務上の射程
強盗罪における「脅迫」が包括一罪(構成要件的吸収)として処理されることを明示した判例である。答案上は、強盗罪の手段としての暴行・脅迫が別途独立した罪を構成しないことを説明する際の根拠となる。また、公訴事実の同一性(刑訴法312条1項)の判断において、強盗と詐欺が原則として別個の事実とされる点も実務上重要である。
事件番号: 昭和23(れ)1879 / 裁判年月日: 昭和24年5月7日 / 結論: 棄却
しかし犯人によつてなされた暴行又は脅迫が社會通念上相手方の反抗を抑壓する程度のものであつて、右暴行又は脅迫と財物の奪取との間に因果關係がある以上は、被害者自身は單に畏怖されたに止つたとしても又被害者自ら財物を交付したとしても強盜罪が成立するものであつて、恐喝罪とはならないことは當裁判所の判例とするところである(昭和二三…
事件番号: 昭和23(れ)1370 / 裁判年月日: 昭和24年1月11日 / 結論: 棄却
被告人が相被告人と共謀の上、強盜をした事實を認定している原判決において、二人共謀の事實と共犯者のどちらかが現實に脅迫の實行行爲をしたことが判分上明確である以上、共犯者のうちどちらかが現實に實行行爲をしたかを明示していなくても、被告人の「罪トナルヘキ事實」の判示として缺くるところはない。