一 窃盜の共犯者と意思連絡のもとに見張をした場合は窃盜の共同正犯と斷ずべきものである。 二 他人の財物を奪取する意思連絡の下にその目的を達するために、或者は財物の奪取行爲を擔當し、他の者は被害者に暴行又は脅迫を加えた場合に、その全員について強盜罪の共同正犯が成立することは多く論ずるまでもないことである。 三 論旨は何日何處で誰々との間に如何なる通謀をしたかの事實理由を判決に明示しなければならないというのであるが、共謀の日時場所は必ずしも判決に明示する必要はなく誰々の間に本件犯行の共謀があつたかは判文自體より明らかであり且第一審相被告人等と被告人との間に主從關係があるとか、對等關係でないとかの事實は、原審では認めないのであるからことさらに對等關係で共謀した旨を説示しなくとも所論の如き違法はない。 四 原判決舉示の證據により、被告人と第一審相被告人との間に本件犯行について意思連絡があり、しかも相被告人等と被告人の間に主從關係とか、不平等關係があつたということは原審で認めないのであるから所論の如き主犯とかの區別は認められないのである。被告人は直接財物窃盜行爲をなさずただ見張をしただけであるから幇助罪として斷ずべきものだと主張するのであるが、原審においては本件共犯者間には強盜についての意思連絡ありと認定したものであり、強盜についての意思連絡の下に見張をしたものは共同正犯として處罰し得べきことは大審院判例の示すところであつて、今これを改める必要なしとの見解に基き強盜の見張をした被告人を強盜の共同正犯と斷じたことを窺い知ることができるのであるから、所論の如き刑法第六〇條の解釋を誤つたものではない。 五 強盗犯人から、犯行を共にするよう誘われ、これを拒んだところ、匕首で脅迫されたので、やむを得ず犯行の現場近くで立つていたとの主張は、刑訴法第三六〇条第二項の「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」にあたらない。 六 数人共謀して犯罪を犯した場合に、共謀をした日時場所は、必ずしも判示する必要はない。 七 原判決において刑法第六〇條を適用した旨を判文上明示しなかつたことは所論の通りである。しかし原判決は第一審相被告人等と被告人とは本件犯行について共謀したものと認定し、且其共謀に基いて被告人は見張をした事實を認定したのであり。意思連絡のもとに強盜の見張をしたのであるから、本件犯行の共同正犯であると断じたものである從つて刑法第六〇條を適用した旨を判文上明示しなくとも、同條を適用した趣旨であることはおのづから明白であるから、所論の如き違法はない。
一 見張りと窃盜の共同正犯 二 財物奪取の意思連絡による行爲の分擔と強盜の共同正犯 三 共謀の事實についての判示の程度 四 見張りと強盜の共同正犯 五 脅迫されて犯行現場の近くに立つていたとの主張と刑訴第三六〇条第二項 六 共謀の日時場所の判示の要否 七 共同正犯に對し刑法第六〇條の適用を判文に明示することの當否
刑法356条,刑法60条,刑法236条,刑訴法360条1項,刑訴法360条2項
判旨
窃盗または強盗の共犯者と意思連絡の下に見張りをした者は、直接的な奪取行為を担当していなくても、刑法60条に基づき共同正犯としての責任を負う。共謀の事実があれば、役割分担として見張りを担当したに過ぎない場合でも幇助罪にとどまることはない。
問題の所在(論点)
特定の犯罪(窃盗・強盗)を共謀し、その実行にあたって自らは直接の財物奪取行為を行わず、現場付近で見張りをしたに過ぎない者について、刑法60条の共同正犯が成立するか。
規範
二人以上が共同して犯罪を実行したというためには、共犯者間における特定の犯罪を行う旨の意思連絡(共謀)と、その共謀に基づく実行行為が必要である。実行行為については、必ずしも構成要件に該当する行為を自ら分担することを要せず、共謀に基づいて見張り等の重要な役割を果たすことで、相互に他人の行為を利用し補充し合って自己の犯罪として実行したと認められる場合には、共同正犯が成立する。
重要事実
被告人AおよびBは、他の共犯者らと相談・意思連絡をした上で、他人の屋内に侵入して金品を強取する計画(強盗)に加わった。AおよびBは、他の共犯者が屋内に侵入して財物を奪取している間、犯行現場の近くで「見張り」を担当した。また、被告人Bは見張り中に屋外に出てきた家人に暴行を加えて傷害を負わせた。弁護人は、見張りをしたに過ぎない者は幇助罪に当たると主張して上告した。
あてはめ
まず、被告人らは共犯者との間で、被害者方の財物を奪取する目的で意思連絡(共謀)をしていたことが認定される。次に、被告人らはこの共謀に基づき、他の者が侵入・奪取を行う際に現場付近で「見張り」という役割を担当した。この見張り行為は、犯行の完遂を容易にするために不可欠な分担といえ、共謀に基づく実行行為の一部を成す。さらに、被告人Bのように見張り中に家人に暴行を加える行為は、強盗という共同の目的達成に向けた行為の一環として評価される。したがって、直接の奪取行為を行っていないことは共同正犯の成立を妨げない。
結論
意思連絡の下に見張りをした者は、窃盗または強盗の共同正犯としての責任を負う。したがって、幇助罪が成立するにとどまるとの主張は理由がない。
実務上の射程
実行行為の分担がない「見張り」であっても、現場共謀があれば共同正犯となることを示した初期の判例である。答案上は、一部実行全部責任の法理を説明する際、構成要件該当行為(財物奪取等)を自ら行わなくとも、共謀に基づき犯罪に重要な寄与をした者には共同正犯が成立する旨の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)356 / 裁判年月日: 昭和23年7月3日 / 結論: 棄却
數名のものが強盜の共謀をしてその内一名が屋外の見張りを擔當し他のものが強盜の實行行爲をした場合には、その見張りをした者についても強盜の共同正犯が成立することは、既に當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年三月一六日言渡昭和二二年(れ)第二三五號事件判決)