一 窃盜罪は物に對する他人の支配を侵してこれを自己の支配に移すことによつて成立するものであるが、被告人は、Aの腰提鞄から紙幣を取出し、これを上衣の脇下に挾んでその場を去り、人垣の外の方に逃げ出そうとするところを被害者に感知されて捕えられたというのであるから右紙幣を既に自己の支配内に移し終つたことは明白である。故に原審が窃盜罪の既遂を以て問擬したのは正當である。 二 憲法第二八條はこの趣旨において、企業者對勤労者すなわち使用者對被用者というような關係に立つものの間において、經濟上の弱者である勤労者のために團結權乃至團体行動權を保障したものに外ならないそれ故、この團結權に關する憲法の保障を勤労者以外の團体又は個人の單なる集合に過ぎないものに對してまで擴張せんとする論旨の見解にはにわかに賛同することはできないのである、もとり一般民衆が法規その他公秩良俗に反しない限度において、所謂大衆運動なるものを行い得べきことは、何人も異論のないところであらうけれど、その大衆運動なるの一事から苟くもその運動に關する行爲である限り常にこれを正常行爲なりとして刑法第三五常に從い刑罰法令の適用を排除すべきであると結論することはできない。
一 窃盜既遂の時期 二 憲法第二八條にいわゆる團結權の意義と大衆運動の合法性の限界
刑法235條1項,憲法28條
判旨
窃盗罪は、物に対する他人の支配を侵して自己の支配内に移すことで成立する。被害者の鞄から紙幣を取り出し、衣類の腋下に挟んでその場を去ろうとした段階で、財物は既に自己の支配内に移ったものとして窃盗罪は既遂に達する。
問題の所在(論点)
被害者の身辺にある財物を抜き取り、身体の一部に隠匿した段階で、財物に対する他人の支配を排除して「自己の支配内に移した」(既遂に達した)といえるか。
規範
窃盗罪(刑法235条)の実行行為である「窃取」とは、占有者の意思に反して、財物に対する他人の占有を排除し、自己または第三者の占有(支配)に移すことをいう。財物が犯人の事実的・独占的な支配内に移ったと認められる時点で既遂に達する。
重要事実
被告人は、被害者Aの腰提鞄(こしさげかばん)から紙幣を取り出し、これを自らの上衣の腋下(わきした)に挟んだ。その後、被告人はその場を去り、人垣の外の方に逃げ出そうとしたが、被害者に感知されて捕らえられた。被告人が紙幣を隠匿し、移動を開始した時点で既遂となるかが争点となった。
あてはめ
被告人は被害者の鞄から紙幣を取り出しており、この時点で他人の占有排除が開始されている。さらに、取り出した紙幣を「上衣の腋下に挟んで」身体に隠匿し、「その場を去り、人垣の外の方に逃げ出そうとした」という事実に照らせば、被害者が即座に感知して取り押さえたとしても、客観的には紙幣が被告人の事実的・独占的な支配下に移ったと評価できる。したがって、財物を自己の支配内に移し終えたことは明白である。
結論
被告人の行為は窃盗罪の既遂に該当する。被害者に直ちに発見されたとしても、身体隠匿および場所的移動を開始した時点で占有移転は完了している。
実務上の射程
スリ等の犯行において、財物を手中に収め、あるいは着衣に隠匿した段階で既遂を認める「隠匿説」ないし「接触説」に近い判断を示したものである。占有移転の成否は、財物の形状、大きさ、隠匿の程度、場所的移動の有無等を総合考慮して判断されるが、本判決は、身体に隠匿した上で移動を開始すれば、比較的早期に既遂を認める実務上の指針となっている。
事件番号: 昭和26(あ)4503 / 裁判年月日: 昭和28年3月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が、他人の保管に係る他人所有の財物につき、他人の所持を排除して自己の支配下に置いた事実は、窃盗罪(刑法235条)の既遂を構成する。 第1 事案の概要:被告人は、他人が保管している他人の所有物を、その保管者の所持を排除した上で、自己の支配下に置いた。この事実関係を前提として、第一審判決が窃盗既…