窃盜罪は他人の實力的支配内にある物を、自己の實力的支配内に移せば既遂となるものであつて、犯人が之を自由に處分し得るような安全な地位に置くことを要するものではない。(當裁判所昭和二三年(れ)第六七五號、同年一〇月二三日第二小法廷判決参照)
窃盜罪の既遂の時期
刑法235條
判旨
窃盗罪は、他人の実力的支配内にある物を自己の実力的支配内に移した時点で既遂となり、犯人が自由に処分し得る安全な地位に置くことまでは必要としない。
問題の所在(論点)
窃盗罪における「占有の移転(既遂)」の判断基準。特に、犯人が財物を安全に処分できる状態に置くことが必要か否か。
規範
窃盗罪(刑法235条)の既遂時期は、他人の実力的支配内にある物を自己の実力的支配内に移した(「占有の移転」があった)時点である。犯人が当該財物を自由に処分し得るような安全な地位に置くことまでは要しない。
重要事実
被告人等は、領得の目的で倉庫からワイシャツを持ち出し、他の場所へ運搬した。弁護人は、当該場所での所持が必然的に発見される状況にあり、いまだ犯人の安全な支配下にはないため既遂に達していないと主張した。
あてはめ
被告人等はワイシャツを領得する目的で、元の保管場所である倉庫から持ち出し、別の場所へ移動させている。この時点で、目的物は元の占有者の支配を離れ、被告人等の実力的支配内に移ったといえる。弁護人が主張する「必然的に発見される状況」であったとしても、現場で着用するなどの隠匿・処分方法はあり得るのであり、安全な処分可能性が確保されるまで既遂が妨げられるものではない。
結論
被告人等の行為は、ワイシャツを自己の実力的支配内に移した時点で窃盗罪の既遂に達する。
実務上の射程
窃盗罪の既遂時期に関するリーディングケースである。答案上は、物の形状(大型か小型か)や隠匿場所の性質に応じて「占有の移転」を論じる際、安全な持ち出しの完了(不法領得の実現可能性)までを求める必要がないことを示す根拠として用いる。
事件番号: 昭和23(れ)675 / 裁判年月日: 昭和23年10月23日 / 結論: 棄却
凡そ不法に領得する意思を以つて、事實上他の支配内に存する物體を自己の支配内に移したときは、茲に窃盜罪は既遂の域に達するものであつて、必らずしも犯人が之を自由に處分し得べき安全なる位置にまで置くことを必要とするものではない。