一 窃盜罪は物に對する他人の所持を侵し、それを自己の支配内におくことに依つて成立するものである。從つて原判決としては、A、B、Cの保管を侵したものであることを判示すれば足り、更に進んで被害物件の所有者の何人であるかまでも判示するの必要はないのである。 二 しかし、被告人の出頭せざりし場合においてのみ、その旨公判調書に記載を要するものであることは、舊刑訴法第六〇條第二項第三號の明規するところである。されば公判調書に右の記載がないときは、他に被告人の出頭せざりしことの證據のない限り、被告人は當該公判廷に出頭したものと認むべきことは當然である。 三 被告人は公判廷において身體の拘束を受けるものでないことは、舊刑訴法第三三二條の明定するところである。さればこの事を公判調書の記載事項としていないことは當然である。それ故特に拘束を受けたとの證據のない限り、公判調書に何等の記載のないことは常に公判廷おいて拘束を受けていないものと認むべきである。 四 窃盜罪の成立要件である他人の物の所持を侵し、之を自己の支配内においたものである以上、既に所論リヤカーに對する窃盜罪は既遂となつていることは明らかであるから、爾後犯人の都合によつて之を放置しても、窃盜罪の成立には何等影響するところはないのである。
一 窃盜罪において被害物件の所有者を判示するの要否 二 被告人の出頭を公判調書に記載していない場合と出頭の認定 三 公判調書に被告人が公判定において身體の拘束を受けた旨の記載がない場合と不拘束の認定 四 窃取後犯人の都合によつて賍物を放置した場合と窃盜罪の成否
刑法235條,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法60條2項3號,舊刑訴法64條,舊刑訴法332條,舊刑訴法60條1項,舊刑訴235條
判旨
窃盗罪は他人の所持を侵し、自己の支配内に置くことで成立するため、他人の保管を侵した事実があれば足り、所有者を特定・判示する必要はない。また、不法領得の意思に基づき物を自己の支配内に置いた以上、その後に犯人の都合により放置したとしても、窃盗罪の既遂成立に影響しない。
問題の所在(論点)
窃盗罪の成立において、(1)被害物件の所有者の特定・判示が不可欠か、(2)占有移転後に物件を放置した場合に既遂成立に影響を及ぼすか。
規範
窃盗罪(刑法235条)の既遂は、他人の占有(所持)を排除し、目的物を自己または第三者の占有(自己の支配内)に移転させた時点をもって成立する。占有移転の事実が認められる以上、被害物件の所有者が誰であるかを厳密に特定・判示する必要はなく、また、既遂成立後に犯人の都合により当該物件を放置したとしても既遂罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人らは、他人のリヤカーを持ち出し、これに別の盗品(玄米等)を積み込んで自宅に帰ろうとした。しかし、その途中で車輪破損という不測の事故が発生したため、リヤカーを持ち出し場所から約20メートル離れた路上に放置した。弁護人は、所有者が特定されていない点や、最終的に放置している点から窃盗罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
(1)について、窃盗罪の本質は「他人の所持を侵し、自己の支配内におくこと」にある。本件ではA・B・Cらの保管(所持)を侵したことが判示されているため、それ以上に所有者が誰であるかを特定せずとも、構成要件的充足性に欠けるところはない。(2)について、被告人らはリヤカーを持ち出した上、これに盗品を積載して自宅へ向かっている。この時点でリヤカーを「自己の支配内」においたといえるため、窃盗罪は既遂に達している。その後の「車輪破損による放置」は、既遂成立後の事情(犯人の都合)に過ぎず、一度成立した既遂罪を否定する理由にはならない。
結論
窃盗罪は、他人の所持を侵害し自己の支配内に移した時点で既遂となり、成立する。本件リヤカーの窃取についても既遂が認められ、被告人の上告は棄却される。
実務上の射程
窃盗罪における「占有移転」の基準が持ち出し時点にあることを示す。答案上では、所有者不明であっても他人の占有を侵害した事実があれば足りる点(客体の特定)や、不法領得の意思に基づき持ち出した後の「事後処分」は犯罪の成立に影響しないという「既遂時期」の論述に利用できる。
事件番号: 昭和27(あ)1519 / 裁判年月日: 昭和28年10月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪における実行の着手後の既遂時期について、目的物を設置場所から取り外して自由に屋外へ移動させ得る状態に置いた時点で、占有が犯人の支配内に移ったものとして既遂が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、窃盗の目的をもって、特定の場所に設置されていた物件を、その設置場所から取り外した。その後、当該…