一 記録によれば成程、被告人等は司法警察官の取調に對しては、いづれも本件犯行を自白していたが、公判の取調においては、「警察における取調に際しては刑事から毆られたので己むなく處僞の自白をしたもので被告人は本件強盜に關係していなかつたものである。」旨供述するに至つたことは所論の通りであるが、裁判所は第一審公判廷で被告人等の取調に當つた司法警察官A、及び取調に立會つた巡査Bを證人として訊問した結果、證人Aは「被告人等の取調に際し部下が被告人等を毆つたようなことは絶對にない」旨、又證人Bは「被告人等の取調に際し少々大きな聲で怒鳴つたことはあつたかも知れないが毆つたりしたことは絶對にない」旨供述したことが明らかである、そこで原審は被告人等の警察における自白を任意に出でたものと認めてその聽取書の供述記載を證據として採用したものと認められる。ところで證據の取捨選擇は事實審裁判所の專權に屬することが被告人等の公判廷における供述と警察における供述とが矛盾する場合にいづれを信用するかはその自由な心證によつて、之を定めることができるのであるから、原審が被告人等の公判廷における供述を採用しなかつたからと言つて之を非難するわけにはゆかないし又右の公判廷における證人Bの證言を以てしても、未だ所論のように被告人の警察における供述が、日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律第一〇條第二項(日本國憲法第三八條第二項)に言う強制又は脅迫によるものとは認められない。その他記録を精査しても所論のような事實を窺うに足る證跡がないから被告人等に對する司法警察官の聽取書中の供述記録を證據に採用した原判決には何等所論のような違法はない。 二 被告人からある證據が無効であるとの主張があつても、裁判所が之を有効な證據と認めて罪證に供するに當つて特に判文上右主張に對する判斷を示す必要はない。從つて本件で原判決が被告人等に對する司法警察官の聽取書中の供述記載を罪證に供するに當つて所論の主張に對する判斷を示さなかつたからと言つて何等所論のような理由不備又は判斷遺脱の違法があるとは言えない。
一 被告人が強制自白であると主張する司法警察官の聽取書を證據に採つた場合の合法性と合憲性 二 罪證に供した證據につき被告人から無効主張があつた場合の判斷明示の要否
憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項,刑訴法360條1項,刑訴法410條19號
判旨
被告人が自白の任意性を争う主張をした場合であっても、裁判所が当該自白を有効と認めて罪証に供する以上、判決文においてその主張に対する判断を明示する必要はない。また、証拠の取捨選択は事実審の専権であり、自由な心証によって警察段階の自白の信用性を認めることができる。
問題の所在(論点)
被告人が証拠(自白)の無効を主張した場合、裁判所はその有効性を認めて罪証に供するにあたり、判決文において当該主張に対する判断を明示しなければならないか。
規範
自白の任意性に疑いがあるとの主張がなされた場合であっても、裁判所が適法な証拠としてこれを採用する以上、判決書においてその判断を特に示す必要はない。また、公判廷での供述と捜査段階の供述が矛盾する場合、いずれを信用するかは裁判所の自由な心証に委ねられる。
重要事実
強盗未遂罪で起訴された被告人らは、警察での取調段階では犯行を自白していた。しかし公判廷では、警察で暴行を受けたため虚偽の自白をしたと主張し、犯行を否認した。第一審は、取調を担当した警察官らの証言(殴打の事実はなく、大声を出した程度である旨)に基づき、自白を任意に出たものとして証拠採用した。これに対し被告人側が、自白の任意性に関する判断を判決文に示さないのは理由不備等にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件では、第一審において取調官等の証人尋問が行われ、暴力等の強制・脅迫の事実は否定されている。原審はこれらの証言に基づき、被告人らの警察における自白を任意のものと認めて証拠採用した。証拠の取捨選択は事実審裁判所の専権(自由心証主義)に属する。被告人の主張に反して証拠を採用した場合でも、それを罪証に供する以上、特段の事情がない限り判決文に判断を示す必要はないため、理由不備や判断遺脱の違法は認められない。
結論
被告人がある証拠を無効と主張しても、裁判所がこれを有効と認めて罪証に供する以上、判決上でその主張に対する判断を特に示す必要はない。
実務上の射程
自白の任意性や証拠能力が争点となる事案において、判決書の理由具備の程度を示す射程を持つ。答案上は、憲法38条2項や刑訴法319条1項に関連し、裁判所の自由心証の範囲と判決の理由記載の要否という手続的適法性の文脈で活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)668 / 裁判年月日: 昭和23年10月26日 / 結論: 棄却
一 原判決舉示の證據を以てすれば、本件被告人の所爲は、被害者の反抗を抑壓するに足る脅迫行爲を以て強盜をしようとしたものであるという事實が證明できるのであるから、原判決がこれに對して強盜未遂罪の罰條を適用したことは相當である。 二 刑事訴訟法第三四五條第一項は、「檢事ハ被告事件ノ要旨ヲ陳述スヘシ」というのみであるから、苟…