一 原判決舉示の證據を以てすれば、本件被告人の所爲は、被害者の反抗を抑壓するに足る脅迫行爲を以て強盜をしようとしたものであるという事實が證明できるのであるから、原判決がこれに對して強盜未遂罪の罰條を適用したことは相當である。 二 刑事訴訟法第三四五條第一項は、「檢事ハ被告事件ノ要旨ヲ陳述スヘシ」というのみであるから、苟くも被告事件の要旨である限り、これを如何様に陳述するも差支えなく、本件の原審公判廷に於て、檢事が第一審判決記載事實の通り被告事件を陳述したことを以て違法とすべき何等の理由もない。のみならず本件に於ては、第一審が公訴事實中の或る部分を無罪とし、而かも控訴は被告人から申立てられたのであるから、第二審における公訴の目的物は第一審が有罪と認定した部分に限局されるわけである。かような場合に檢事が、第一審判決記載事實の通り被告事件を陳述することは寧ろ當然であつて、所論のように裁判權と檢察權との職責を混淆する違法があるとは認められない。 三 強盜傷人罪は、強盜又は強盜未遂行爲の結果的加重犯であるから、公訴事實(強盜傷人)と判決で認定した事実(強盜未遂)との同一性は失はれていない。強盜傷人という公訴事實につき強盜未遂罪を認定した以上、強盜傷人について無罪を言渡すべきいわれはない。又傷人ということは、強盜傷人罪の一部分であつて、獨立の一罪として起訴されているのではないから、傷人の點のみにつき無罪を言渡す必要もない。
一 強盜罪における脅迫の程度 二 第二審公判廷において檢事が第一審判決記載事實の通り被告事件を陳述したことの當否 三 強盜傷人の公訴事實につき強盜未遂を認定した場合傷人の點につき無罪を言渡すことの要否
刑法236條,刑法240條,刑訴法345條1項,刑訴法362條
判旨
強盗致死傷罪(刑法240条)として公訴提起された事実につき、傷人の事実が認められず強盗未遂罪(243条、236条)を認定する場合、両事案は同一の公訴事実の範囲内にあるため、判決で強盗致死傷罪や傷人の点について別途無罪の言渡しをする必要はない。
問題の所在(論点)
強盗傷人罪の公訴事実に基づき強盗未遂罪を認定する場合、公訴事実の一部(傷人)が認められないことについて、判決主文または理由中で個別に無罪の告知をする必要があるか。
規範
1. 強盗致死傷罪は強盗または強盗未遂行為を基本犯とする結果的加重犯であり、強盗未遂罪とは公訴事実の同一性(刑事訴訟法256条3項、312条1項)を失わない。 2. 重い罪名で起訴された事実の一部が認められない場合でも、縮小認定される罪(基本犯)を認定した以上、起訴事実全体に対して無罪を言い渡す必要はなく、また独立した一罪ではない構成部分(傷人の点)のみに無罪を言い渡す必要もない。
重要事実
被告人は強盗傷人罪の公訴事実で起訴されたが、原審(控訴審)は証拠に基づき、被害者の反抗を抑圧するに足りる脅迫をもって強盗に着手した事実は認める一方、傷人の事実は認めず、強盗未遂罪を認定した。これに対し被告人側が、傷人の点について不問に付しながら無罪の言渡しをしないのは理由不備の違法があると主張して上告した事案。
あてはめ
1. 本件において、強盗傷人罪は強盗未遂行為の結果的加重犯という関係にある。したがって、認定された強盗未遂罪は、当初の公訴事実である強盗傷人罪の範囲内に含まれており、両者の同一性は維持されている。 2. このような縮小認定の場合、構成要件的に重い強盗傷人罪全体について無罪を言い渡す根拠はない。 3. また、傷人の事実は強盗傷人罪の一部を構成する要素にすぎず、独立した一罪として起訴されているわけではない。そのため、構成要素の一部が欠損したからといって、その部分のみに無罪を言い渡す必要も認められない。
結論
強盗傷人の公訴事実に対し強盗未遂罪を認定した以上、強盗傷人罪やその一部である傷人の点について無罪を言い渡す必要はなく、原判決に違法はない。
実務上の射程
刑事実務における「縮小認定」の基本法理を示すものである。重い罪名(結果的加重犯等)から軽い罪名(基本犯等)を認定する場合、公訴事実の同一性が認められる範囲内であれば、不認定部分について一部無罪を言い渡す必要がないことを明示した。答案作成上は、公訴事実の同一性や罪数論の文脈で、一部不認定時の判決の書き方を論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和25(れ)1011 / 裁判年月日: 昭和26年1月23日 / 結論: 破棄差戻
一 本件公訴提起は公判請求書に基いて公判請求がなされているのであるが、右公判請求書の記載は論旨摘録の通りであつて、その記載においては被告人等が欺罔手段を用いたのは被害者を誘い出す為めであり、財物の交付を受ける手段としてこれを用いたことは少しも記載されていない。換言すれば財物を騙取せんとした行為は少しも書いてないのである…
事件番号: 昭和24(れ)1091 / 裁判年月日: 昭和24年7月16日 / 結論: 棄却
上告趣意一の強盜行爲(原判決判示第一の事實)は未遂であることは原判決もそのとおりに認定しているのであるが、その現場において傷人した以上は、たとい強盜行爲は未遂であつても、刑法第二四〇條前段の強盜傷人罪は成立するのである。