一 横領罪は他人の物を保管する者が、他人の權利を排除して、ほしいままにこれを處分すれば成立するのであつて、必らずしも自己の所有とし又はこれによつて利益をうることを必要としない。(昭和二三年(れ)第九三〇號、同二四年六月二九日大法廷判決參照) 二 横領罪の成立に必要ないわゆる不法領得の意思とは他人の物を保管する者が他人の權利を排除してほしいままにこれを處分する意思をいうので必らずしも自己の利益取得を意圖することを必要とするものではない。
一 横領罪の意義 二 横領罪の成立に必要な不法領得の意思の意義
刑法252條1項
判旨
横領罪における不法領得の意思とは、他人の物を保管する者が、他人の権利を排除してほしいままにその物を処分する意思をいい、必ずしも自己の利益を図る目的や利得の存在を必要としない。
問題の所在(論点)
横領罪の成立要件である「不法領得の意思」の内容として、自己の利益(利得の意思)が必要か。利得がない場合でも、他人の物を勝手に処分すれば不法領得の意思が認められるか。
規範
横領罪(刑法252条1項)における「不法領得の意思」とは、他人の物を保管する者が、真の所有者であればなし得るような態様で、他人の権利を排除して、ほしいままにその物を処分する意思をいう。したがって、自己の所有物として振る舞う意思があれば足り、自己の利益を享受しようとする意欲(利得の意思)や、実際に利益を得た事実は不可欠ではない。
重要事実
村長であり農業会会長の職にあった被告人は、職務上、村内の食糧要配給者に対する配給余剰米麦を保管する責任を負っていた。被告人は、正規の手続きにより権限を授与されることなく、これらの米麦を村内の非農家地主、農業会職員、および非農家要配給者らに対し、譲渡し処分した。なお、被告人自身は本件処分によって一粒一銭の利益も得ていなかった。
あてはめ
被告人は、職務上保管していた米麦について、正規の手続きを経ることなく第三者に譲渡している。この行為は、他人の物を保管する者が「他人の権利を排除して、ほしいままにこれを処分」したことに他ならない。被告人が一粒一銭の利益も得ていないという事実は、自己の所有物として振る舞う処分意思を否定するものではなく、被告人の行為には不法領得の意思が認められると評価される。原判決が認定した「ほしいままに譲渡し処分した事実」により、不法領得の意思の実現が肯定される。
結論
被告人に自己の利益を得る意図がなかったとしても、不法領得の意思は認められ、横領罪が成立する。
実務上の射程
横領罪と背任罪の区別において、横領罪に特有の「領得(所有者としての振る舞い)」を画定する基準となる。利得意思を不要とし、処分意思を重視する本判例の立場は、第三者の利益を図る目的で横領が行われた場合や、単に浪費・破壊に近い処分が行われた場合でも、委託信任関係を侵害して所有者らしく振る舞えば横領罪が成立することを示す。答案上は、利得の有無に関わらず「所有者でなければできない処分」の有無から不法領得の意思を認定する際に引用する。
事件番号: 昭和23(れ)930 / 裁判年月日: 昭和24年6月29日 / 結論: 棄却
一 按ずるに横領罪は、他人の物を保管する者が、他人の權利を排除してほしいままにこれを處分すれば、それによつて成立するものであることは明らかであり、必ずしも自分の所有となし、もしくは自分が利益を得ることを要しない。 二 刑罰法令を誤解して該法令に該当しないとする主張は、裁判所法第一〇条及び刑訴応急措置法第一七条にいわゆる…