一 按ずるに横領罪は、他人の物を保管する者が、他人の權利を排除してほしいままにこれを處分すれば、それによつて成立するものであることは明らかであり、必ずしも自分の所有となし、もしくは自分が利益を得ることを要しない。 二 刑罰法令を誤解して該法令に該当しないとする主張は、裁判所法第一〇条及び刑訴応急措置法第一七条にいわゆる違憲の上告論旨とはいえない。 三 憲法第二五條第一項の法意は、國家は國民一般に對し、概括的に健康で文化的な最低限度の生活を營ましめる實務を負擔し、これを國政上の任務とすべきであるとの趣旨であつて、此規定により直接に個々の國民は國家に對し、具體的現實的にかかる權利を有するものではない。(昭和二三年(れ)第二〇五號同二三年九月二九日大法廷判決參照)
一 横領罪における不法領得の意義 二 刑罰法令の誤解に基く主張と再上告理由としての適否 三 憲法第二五條第一項の法意と國民の權利
刑法252條1項,裁判所法10条,刑訴応急措置法17条,憲法25條1項
判旨
横領罪における不法領得の意思は、他人の物の保管者が、他人の権利を排除してほしいままに処分することによって認められ、必ずしも自己の所有物としたり自己の利益を得たりすることを要しない。
問題の所在(論点)
不法領得の意思の内容として、自己の利益を図る意思(利得意思)が必要か。また、公益的な目的で行われた処分行為について不法領得の意思が否定されるか。
規範
横領罪(刑法252条、253条)は、他人の物を保管する者が、他人の権利を排除してほしいままにこれを処分すれば成立する。いわゆる不法領得の意思が認められるためには、必ずしも目的物が自己の所有に帰すること、あるいは自己が利得を得ることを要しない。
重要事実
村農会会長の被告人は、業務上保管中であった国所有の玄米144俵および営団所有の玄米312俵を、正規の手続を経ることなく、特配名義で村民に売り渡した。被告人は、本件行為が食糧不足に苦しむ村民の救済や農村一揆の防止という公益的目的で行われたものであり、売却代金も一切私物化していないことから、不法領得の意思が欠け、横領罪は成立しないと主張した。
あてはめ
被告人は、本来正規の手続を経て権限を与えられなければ行えない玄米の処分を、特配という外形を借りて勝手に行ったものである。これは、物の所有者である国や営団の権利を排除して、保管者が「ほしいままに処分」したといえる。村民救済という公益的目的があったとしても、あるいは売却代金を一切私物化せず利得を得ていないとしても、他人の権利を排除して処分したという客観的事実およびその認識がある以上、不法領得の意思は認められる。したがって、本件処分行為により業務上横領罪が構成される。
結論
横領罪の成立に自己の利得は不要であり、他人の権利を排除して処分する意思があれば足りる。被告人の行為は業務上横領罪を構成する。
実務上の射程
横領罪における不法領得の意思が「利用処分意思」に重点を置き、「利得意思」を不要とする立場を明確にした判例である。答案上では、被告人が「第三者の利益」や「公益」のために処分したと主張する事案において、本規範を用いて領得認容を肯定する論拠として活用する。
事件番号: 昭和26(れ)240 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思を指す。この意思は必ずしも自己の利益収得を意図することを必要とせず、自己の物として領得・処分する意思に限定されない。 第1 事案の概要:村長である被告人が、職務上保管し…