一 記録によれば、被告人は、警察署、検事局、第一審公判廷、原審公判廷において、終始一貫して通譯を介するところなく、日本語を聞取り且つ日本語を話していることは明らかであつて、これらの點より見れば、原審は、被告人が公判請求書の記載を讀み聞かされ、これを理解する十分な日本語の知識あることを職權をもつて認定し審理をなしたことは、疑いのないところである。(通譯をつけず、公判請求書の記載を讀み聞かせたことは、公判中心主義に則つた裁判でないという)論旨はそれ故に理由がない。 二 記録を調べてみると、原審において、被告人の選任した辯護人中山福藏は、第一回公判期日に出頭していたが、審理半ばにして退廷したので、裁判所は直ちに原審相被告人Aの辯護人として出頭していた辯護士澤田剛を被告人の辯護人に選任し審理を進めたことは、明らかである。そして、右澤田辯護士は、本件第一審及び原審において被告人の選任した辯護人であつたが、原審第一回公判期日前に辯護辭任届を出した者で、事案には精通していたと認められる。しかも、本件の事實は、刑法第二三七條の強盜豫備罪に該るものであつて、その法定刑は二年以下の懲役であるから、舊刑訴第三三四條に定める強制辯護の場合に該當しないこと明らかである。從つて、原審の處置をもつて辯護權の制限として非議すべき何等の事由もない。 三 保釋の却下に對しては、それが不法であるならば別に救濟の道を採るべきであつて、原判決に何等の影響なきこと明白な保釋却下の事實を捉えて上告理由とすることはできない。
一 或る程度日本語を解する被告人に通譯をつけず公判請求書の記載を讀み聞かせたことと上告理由 二 審理半ばに辯護人退廷したため直ちに相被告人の辯護人を被告人の辯護人に選任して審理を終えた場合と辯護權の不法制限 三 保釋の却下に對する不服と上告理由
舊刑訴法232條,舊刑訴法334條,舊刑訴法410條11號,舊刑訴法116條,舊刑訴法411條
判旨
強盗予備罪(刑法237条)のように、法定刑が2年以下の懲役である事件については、強制弁護事件には該当しないため、私選弁護人の退廷後に直ちに国選弁護人を選任して審理を進める措置を講じても、弁護権の制限としての違法は認められない。
問題の所在(論点)
強盗予備罪の事案において、私選弁護人が公判途中で退廷した際、裁判所が直ちに別の弁護人を選任して審理を継続した措置は、弁護権を不当に制限するものとして違憲・違法となるか。また、強盗予備罪は強制弁護事件に該当するか。
規範
旧刑事訴訟法334条(現行法289条1項参照)の定める強制弁護事件に該当しない事案においては、弁護人の不在が直ちに審理の停止を意味するものではなく、裁判所が迅速な裁判のために適切な弁護人を確保する措置を講じた場合には、弁護権の制限には当たらない。
重要事実
被告人は強盗予備の罪で起訴された。原審(二審)の第一回公判期日において、被告人の選任した私選弁護人が審理の途中で退廷した。裁判所は、直ちに共犯者の弁護人として出頭していた弁護士を被告人の弁護人として選任し、審理を続行した。当該弁護士は、以前に被告人の弁護人を務め辞任した経緯があり、事案に精通していた。被告人は、このような裁判所の措置が弁護権の制限に当たると主張して上告した。
あてはめ
まず、強盗予備罪(刑法237条)の法定刑は2年以下の懲役であり、強制弁護事件を定めた規定には該当しない。次に、私選弁護人の退廷を受けて裁判所が選任した弁護士は、かつて被告人の弁護人を務めており事案に精通していた。このような事情の下では、裁判所の選任措置は被告人の防御権を確保しつつ迅速な審理を図るものであり、弁護権を制限した事由はないと評価される。
結論
強盗予備罪は強制弁護事件ではなく、事案に精通した弁護人を選任して審理を継続した原審の措置に弁護権制限の違法はない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法289条が定める強制弁護事件の範囲外における裁判所の職権行使の適法性を判断する際に参照される。ただし、現代の刑事訴訟においては被告人の防御権の実質的保障が重視されるため、弁護人の交替にあたっては準備期間の確保等の適正手続への配慮が必要となる点に留意すべきである。
事件番号: 昭和53(あ)643 / 裁判年月日: 昭和54年11月19日 / 結論: 棄却
刑法二三七条にいう「強盗ノ目的」には同法二三八条の準強盗を目的とする場合を含む。