一 「法令ノ適用」というのは、これらすべての法規の適用をさしているのではなく「罪トナルベキ事實」に適用されて被告人の刑事責任を生ずるに直接關係ある法令の正條の摘用を意味しているのである、されば所論の昭和二二年法律第一二四號附則第四項のような手續的法規の適用は有罪判決に示す必要がないのである、また假りに右の規定が有罪判決に示さなければならない實體的規定であるとしても「刑法の一部を改正する法律」の施行後において、その施行前の行爲につき刑法第五五條を適用すれば、おのずから所論の規定の適用されたことも推知されるものであることは當裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一一二號同年七月十四日言渡大法廷判決)とするところである。 二 刑事訴訟における被告人の訊問は、一面において當事者としての被告人に公訴事實について陳述の機會を與えるものであるとともに、他面において證據方法としての被告人の證據調でもあるのである。一般に被告人の訊問と被告人以外の證據調とは一應別々の段階において行はれるのが通常ではあるが、證據調の段階において被告人の訊問がなされてももとより違法ではない。されば、被告人訊問の趣旨が書證の證據調によつて補われることは少しも差つかえないことである、それ故原審公判において、たとえ裁判長が所論のように第一審判決書の記載に基いて被告人を訊問し、また所論のような證據調をしたとしてもこれらの手續の全體によつて犯罪事實は具體的に明らかにされるのであつて原審の證據調の手續には違法はない。 三 所論の各被害届並びに各被害始末書は、本件捜査手續の段階において各被害者が被害の顛末を報告する書面として作成して捜査官憲に提出したものを本件記録に編綴したものであり、これらの書面の成立についてはその後の審判手續においても別段爭はれた形跡のないことは記録上明らかである。されば右の書面は、本刑事事件の手續について作成されたものであるから舊刑事訴訟法にいわゆる證據書類に當るものである、それ故、右書面の證據調は、同法第三四〇條に從つてなさるべきものであり原審の裁判長が所論のように右書面の要旨を被告人に告げて證據調をしたことは正當であつて原判決には所論のような違法はない。
一 舊刑訴法第三六〇條第一項の法意と昭和二二年第一二四號附則第四項の適用明示の要否 二 被告人訊問と證據調とが順序不同な場合と證據調の當否 三 記録に編綴された被害届書等の證據調
舊刑訴法360條,舊刑訴法55條,舊刑訴法338條,舊刑訴法134條,舊刑訴法340條
判旨
有罪判決に示すべき「法令の適用」とは、被告人の刑事責任を直接発生させる実体法規の正条を指し、附則等の手続的法規を含むものではない。また、証拠調べの段階において被告人訊問が行われ、その内容が書証により補完される形での証拠調べ手続も適法である。
問題の所在(論点)
1. 有罪判決において明示が義務付けられる「法令の適用」に、刑事責任の発生に直接関係しない手続的法規(附則等)が含まれるか。 2. 被告人訊問と他の証拠調べを併用して犯罪事実を具体化する手続は、証拠調べとして許容されるか。 3. 捜査段階で作成された被害届等の書面について、旧刑訴法上の証拠書類として扱うことの可否。
規範
1. 有罪判決に示されるべき「法令の適用」(旧刑訴法360条)とは、罪となるべき事実に適用され、被告人の刑事責任を直接発生させる実体法上の正条の適用を意味する。したがって、手続的法規の適用を示す必要はない。 2. 被告人訊問は、当事者としての陳述機会の付与と、証拠方法としての証拠調べの両面を有する。証拠調べ段階で被告人訊問を行い、その内容を書証の証拠調べによって補完することは、適法な手続である。
重要事実
被告人らは共謀の上、複数回にわたりモーターや窓ガラス等を窃取したとして、窃盗罪等で有罪判決を受けた。弁護人は、①新旧刑法の経過措置を定めた附則等の手続的法規が判決に示されていない点、②第一審判決書に基づいて被告人訊問を行い、書証の内容で補完した証拠調べ手続の違法、③被害届等の証拠能力および証拠調べの不備、等を理由に上告した。
あてはめ
1. 刑事責任の存否に直接関わるのは実体法規であり、本件で問題となった附則等の手続的規定は、有罪判決に必須の記載事項ではない。また、改正後の刑法を適用した際、当然にその前提となる経過措置が適用されていることは推知可能である。 2. 刑事訴訟において被告人は証拠方法としての性格も有しており、裁判長が第一審判決書の記載に基づき訊問し、他の書証とあわせて犯罪事実を明らかにする手法は、手続全体として適正である。 3. 被害届や被害始末書は捜査段階で報告書面として作成され、審判手続で成立が争われていない以上、旧刑訴法上の「証拠書類」に該当し、その要旨を被告人に告げる方法による証拠調べは正当である。
結論
原判決に法令適用や証拠調べの違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
判決における「法令の適用」の対象を実体法に限定した点で実務上重要である。また、被告人訊問の証拠方法としての性質を認め、書証による補完を肯定した判断は、自由な心証形成に至るまでの証拠調べの柔軟性を認めるものとして、現代の刑事手続における審理の在り方にも影響を与えている。
事件番号: 昭和24(れ)825 / 裁判年月日: 昭和24年9月29日 / 結論: 棄却
一 窃盜の事實と物價統制令違反の事實は、法律上その罪質と評價とを異にする別個の事實であるばかりでなく、本件ではその犯罪の時期、目的物の數量等をも異にし必ずしも實質上相關關係にあるものとはいへないから、原判決が前者を有罪とし、後者を無罪としたからといつて理由齟齬若しくは事實誤認の違法ありとすることはできない。 二 原判決…