一 窃盜の事實と物價統制令違反の事實は、法律上その罪質と評價とを異にする別個の事實であるばかりでなく、本件ではその犯罪の時期、目的物の數量等をも異にし必ずしも實質上相關關係にあるものとはいへないから、原判決が前者を有罪とし、後者を無罪としたからといつて理由齟齬若しくは事實誤認の違法ありとすることはできない。 二 原判決は三の事實として「同年四月二〇日頃同所で肥料硫安九叺(四〇五瓩)を窃取し」と判示しているだけでその保管者及び所有者を明示していないことは所論のとおりであつて、原判決の判示は正確を缺く粗笨のものであるといわねばならない。しかし右の判示は被告人以外の他人の所有並びに占有に屬する硫安であるとする趣旨であることを看取し得るから、原判決を破棄するに足る缺點とすることはできない。
一 窃盜の事實を有罪として物價統制令の事實を無罪とした判決と理由齟齬の有無 二 窃盜罪の目的物の保管者及び所有者を判示しない判決と上告理由
刑法235條,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法410條19號
判旨
窃盗罪の成立を認めるに際し、被害物件の保管者及び所有者を具体的に特定していない判決であっても、他人の占有・所有に属することが判示の趣旨から看取できるのであれば、直ちに破棄すべき違法とはならない。
問題の所在(論点)
窃盗罪の有罪判決において、目的物の所有者や保管者を個別具体的に特定・明示しなかった場合、判決に理由不備等の違法が認められるか。
規範
有罪判決において罪となるべき事実(刑訴法335条1項)を摘示するにあたり、窃盗罪においては目的物が自己の所有物でないことを示す必要がある。もっとも、目的物の保管者や所有者を個別具体的に明示していない場合であっても、判示全体の趣旨からそれが「他人の占有・所有に属する物」であることが明らかに看取し得るのであれば、判示として必要十分であり、破棄事由たる理由不備等の違法には当たらない。
重要事実
被告人は、昭和22年2月中旬から同年4月20日までの間、3回にわたり玄米及び肥料(硫安)を窃取したとして窃盗罪等で起訴された。原判決は、肥料の窃取事実について「同所で肥料硫安九叺を窃取し」と判示するのみで、その保管者及び所有者を明示していなかった。これに対し弁護人は、犯罪事実の特定に欠ける判決理由の不備であると主張して上告した。
あてはめ
原判決の判示は、肥料の保管者や所有者を明示しておらず、その表現において正確を欠く粗笨なものであるといえる。しかし、判示の文脈全体を検討すれば、当該肥料が「被告人以外の他人の所有並びに占有に属するもの」であることを前提として窃盗罪の成立を認めている趣旨であることは十分に看取できる。したがって、実質的に窃盗罪の構成要件たる「他人の財物」であることを認定していると評価でき、原判決を破棄するに足りる重大な欠点とは認められない。
結論
原判決に理由不備の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、有罪判決における事実摘示の程度について、厳密な特定を欠く場合でも、構成要件に該当することが趣旨から合理的に読み取れれば足りるという実務的な許容範囲を示したものといえる。答案作成上は、窃盗罪の客体である「他人の財物」の認定において、所有者が不明であっても他人の占有・所有が認められれば足りるという文脈で引用可能である。
事件番号: 昭和23(れ)1135 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
然し判文に事實認定の證憑となつた證據の内容を具體的に明示することは必ずしも必要でないが如何なる證據及び證據の如何なる部分によつて如何なる事實を認定したものかが判文記載の事實と相俟つて、その内容を知り得る程度に説明すれば足るものである。