連續せる窃盗罪の判示に於て、被害者の氏名又は員數を明示せず、その證據説明に於て、證據の具體的内容を示さず、又その證據説明が一部は虚無であり、一部は證據の具體的内容を示さず、一部は判示に照應することが明確でないことは違法である。
連續せる窃盗罪の事實及び證據説明の判示の程度
刑法235條,刑訴法360條1項
判旨
有罪判決の事実摘示においては、窃盗罪の被害者、被害物件等の構成要件的要素を具体的に明示すべきであり、かつ証拠と認定事実との間に客観的な照応関係が認められなければならない。
問題の所在(論点)
窃盗罪の有罪判決において、被害者や被害物件等の事実適示、およびそれらと証拠との関連性の説明が不十分な場合、判決の適法性にどのような影響を及ぼすか。
規範
有罪判決の判決書には、犯罪となるべき事実を具体的に摘示しなければならず、窃盗罪においては被害者の氏名(または員数)および被害物件の品目・数量を明示すべきである。また、証拠の説示は、認定事実と証拠との関連性を十分に理解し得る程度に具体的内容を示す必要があり、証拠の一部が虚無であったり、認定事実と証拠内容が矛盾・齟齬する場合には、判決に理由不備または理由齟齬の違法があるものと解する。
重要事実
被告人は、約1年2ヶ月の間に37回にわたり複数の精米所等から米・麦・小麦粉等の食糧および雑品を窃取したとして、窃盗罪で起訴された。原判決は、証拠として被告人の供述および30名が提出した盗難届等を挙げ、包括的に犯罪事実を認定した。しかし、判示事項には糯米2斗の窃取が含まれていたが、被告人の供述は「2升」であり、数量に10倍の開きがあった。また、証拠として列挙された者のうち数名については対応する盗難届が記録上存在せず、氏名の誤記も散見された。さらに、個別の窃盗被害について、どの被害物件が誰の所有であるか等の対応関係が一切示されていなかった。
あてはめ
原判決の事実摘示には、糯米2斗の所有者や雑品の内容、被害者の氏名・員数等の具体的記載がなく、判示自体から内容を把握できない不備がある。また、証拠面においても、①判示の「糯米2斗」に対し被告人の供述は「2升」であって内容が照応せず、②証拠として挙げた盗難届の内容も具体的説示を欠き、③一部の提出者については記録上証拠が存在しない(虚無)。このような判示および証拠説明の不備は、犯罪事実と証拠との関連性を理解することを不可能にするものであり、事実認定の適法な基礎を欠くといえる。
結論
原判決は事実摘示および証拠説明において、犯罪の具体的特定および証拠との関連性の提示に欠ける違法がある。したがって、原判決を破棄し、本件を差し戻すべきである。
実務上の射程
窃盗罪等の財産犯において、事実摘示の特定度(被害者・品目)が不十分な場合や、認定した数量と証拠上の数量に重大な齟齬がある場合の「理由不備・理由齟齬」の主張に活用できる。特に多数の余罪を包括的に認定する際でも、個別の事実関係の特定を怠ってはならないとする実務上の要請を示す。
事件番号: 昭和24(れ)2738 / 裁判年月日: 昭和25年3月31日 / 結論: 破棄差戻
原審の採用した證據によると判示の場所でA保管に係る名古屋知b區a町B株式會社が陸軍者から拂下を受けた原毛約一二梱が盜難にかかつた事實と被告人が原毛を取扱つた事實は判るけれども盜難にかかつた原毛と被告人の取扱つた原毛が同一のものであることは原判決舉示の證據からはこれを認めることができないのであつて、從つてまた被告人が判示…