一 (犯罪事實認定の證拠として採用した盜難被害届に)上告理由記載の通り計算に誤りがあつたとしても、犯行全體から観察して極めて軽微を判決に影響を及ぼす程度のもので無いと認められるから破毀の理由とはならない。 二 詐欺罪の目的物である財物の表示として麥五升と表示すれば充分であつて麥の種類を表示し無いでも破毀の理由にはならない。
一 計算に誤りある盜難被害届による事實認定 二 犯罪の目的物の表示の具體性の程度
刑訴法411條,刑訴法410條19號,刑訴法360條,刑法246條
判旨
有罪判決の罪となるべき事実において、窃取した財物の価格の計算に軽微な誤りがあっても、犯行全体から見て判決に影響を及ぼさない。また、財物の表示として種類等の細部を省略しても、客体としての特定に欠けるものではない。
問題の所在(論点)
1. 証拠上の被害金額と判示された被害金額に差異がある場合、判決に影響を及ぼすべき証拠援用の違法となるか。 2. 詐欺罪の客体について、種類(押麦)を明示せず総称(麦)で表示することは理由不備となるか。
規範
判決書の「罪となるべき事実」の認定において、証拠と認定事実との間に厳密な一致を欠く部分があっても、それが犯行全体から観察して極めて軽微であり、判決の結論に影響を及ぼさない程度のものであれば、虚無の証拠による認定の違法(破棄理由)とはならない。また、財物の表示については、客体の特定として十分な記載があれば足り、その種類や細別を詳細に判示しないことのみをもって理由不備とはならない。
重要事実
被告人は、窃盗罪につき衣類等46点の価格を合計4,200円相当と認定され、詐欺罪につき「麦5升」を詐取したと認定された。しかし、証拠(被害届)上の窃盗被害額は3,801円であり、また詐欺の客体に関する証拠(聴取書)には「押麦5升」と記載されていた。被告人側は、これらの認定が虚無の証拠に基づくものであり、また財物の表示が不十分で理由不備であると主張して上告した。
あてはめ
1. 窃盗被害額について、証拠上の3,801円に対し判決が4,200円とした点に計算上の誤りはある。しかし、衣類46点の窃取という犯行全体から観察すれば、この程度の価格差は極めて軽微であり、量刑等の判決の結論に影響を及ぼすほどのものではない。 2. 詐欺の客体について、財物の表示として「麦5升」と記載すれば、詐欺罪の目的物として十分に特定されている。証拠上「押麦」であったものを「麦」と表示することは、種類の表示を省略したに過ぎず、別個の物を認定したとはいえないため、証拠に基づかない認定とは解されない。
結論
1. 被害額の僅かな差異は判決に影響を及ぼさないため、破棄理由とはならない。 2. 財物の表示に細部の不備があっても、特定として十分であれば理由不備や虚無の証拠援用には当たらない。
実務上の射程
事実誤認や理由不備を主張する際の「判決に影響を及ぼすこと」の判断基準を示す。軽微な計算違いや、属性の包括的な表示(例:『押麦』を『麦』と表記)については、判決の正当性を左右しない限度で許容されるという実務的な限界を画している。
事件番号: 昭和23(れ)870 / 裁判年月日: 昭和23年12月21日 / 結論: 棄却
(詐欺罪の目的物の數量につき)、原審は多少の計算違をしたものと思われるが全詐取量に比し右の如き極めて少數の計算違があつたからといつて其爲め判決主文に影響があつたものとは到底考へられない。從つて論旨は上告の理由とならない。